「後見制度」といえば、認知症や障害などにより自身の判断能力が不十分となってしまった方の代わりに財産管理や契約締結等を行う「法定後見人」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実は、「後見制度」には大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。
「法定後見人」がすでに判断能力が低下してから選ばれるものであるのに対し、「任意後見人」は意思や判断能力がまだはっきりとしている段階であらかじめ後見契約を結んでおくものです。
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法定後見人は、家庭裁判所により、最も適任であると思われる人物が選任されますが、本人の希望とは異なる方が後見人となることもあります。場合によっては面識のない弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職が選ばれる可能性もあります。
また、一度法定後見人が選任された場合には、勝手に辞任や交代はできず、本人が死亡するまで法定後見は終了しません。
一方、任意後見の場合は、将来の認知症などに備えて自身の生活に関する身の回りの世話や療養看護、大切な財産の管理や契約等といった行為を自身で選んだ後見人に託すことができます。信頼する親族等を選任することも可能です。
また、任意後見人の「代理権の範囲」を契約で自由に定めることができるため、本人の意思が反映されやすくなります。
それでは、ここからは「任意後見契約書」の作成について解説をしていきます。
法的に効力のある「任意後見契約書」を残すには?
はじめに1点重要なことをお伝えしておきます。
「任意後見契約書」を法的に有効なものとするには、公証役場にて、公証人の作成する「公正証書」として作成しなければなりません。
これは法律で義務付けられていますので、当事者間だけで任意後見の契約書を取り交わしていたとしても、公正証書でなければ、選任した任意後見人による後見を開始することはできません。
とはいえ、公証人に任せきりにするわけにもいきません。
任意後見契約は、自身の意思・判断能力がしっかりしている間に締結する「委任契約」です。後見が開始した際、本人の意思を尊重し、後見人にその意思に基づいて後見活動をしてもらうもらうことが求められます。「任意後見契約書」に尊重してほしい自身の意思がしっかりと反映されていなければ意味がありません。
そのため、公証役場で任意後見契約公正証書の作成依頼をする前に、まずは「任意後見契約書」のドラフトをしっかりと準備しておくことが重要です。
任意後見契約書テンプレート
認知症や障害などで自身の判断能力が低下してしまった場合に備え、財産管理や契約・手続き等の事務処理を委託する後見人を自ら選定し、契約を結ぶための「任意後見契約書」テンプレートです。補足として詳細を記載する別紙「代理権目録」と「ライフプラン」付き。
具体的な内容については、当事者の意向に即して適宜書き換えてください。
なお、任意後見契約の法的効力を発生させるためには、「公正証書」にて作成する必要があります。そのため、通常の契約書テンプレートにある後文・署名欄は省略しています。
<監修:エニィタイム行政書士事務所・行政書士KIC事務所>
※テンプレートには赤文字で解説が書かれています。使用時には削除してください。
※テンプレートのご利用について、当社では責任を負いかねます。ユーザー様ご自身の責任においてご利用いただきますようお願い致します。
任意後見契約書で定めておくべき内容
「契約の趣旨」について
任意後見契約は「任意後見契約に関する法律」に則って成立し適用される旨を記載します。
この条項は定型的な内容となりますので、重要なのは、後見人となる受任者が誰であるかという点です。任意後見契約の最重要ポイントとなりますので、しっかりと選任してください。
「契約の発効」について
任意後見契約は、任意後見監督人が選任されたときから効力が生じることになりますのでその旨を契約で定めておく必要があります。
ですので、こちらも定型的な内容ではありますが、必須条項です。
「後見事務の範囲」について
冒頭でも説明したように、任意後見契約は代理権の範囲を自由に設定できます。
契約書に「後見事務の範囲」という条項を設け、受任者である任意後見人へ付与する代理権の範囲を定めます。
ひな形では、別紙「代理権目録」として、
- 不動産・動産に関する事項
- 預貯金等の金融機関等との取引に関する事項
- 生活費や日常的な取引に関する事項
- 行政等の諸手続きに関する事項
といった、必要であると想定される内容を代理権の事項として記載しています。
代理権の範囲を狭く限定したい場合には、付与する必要のない事項は削除、更に付与したい事項がある場合には追加、代理権事項の詳細につき修正したい箇所は訂正し、ご自身の希望・考えに沿ってアレンジしてください。
本契約の最重要ポイントとなる条項ですので、よく検討していただく必要があります。
「任意後見監督人の選任」について
この条項は、「契約の発効」の条項内に盛り込む場合もありますが、本ひな形では、別の条項として定めています。
「契約の発効」と同様に任意後見契約書にて定めておく必要がある内容です。
「任意後見監督人」が選任されるタイミングは、「本人が認知症等などの原因によって精神上の障害により、事理弁識能力が欠如している状況にあるとき」とされています。そのような状況になったときに、「任意後見契約の受任者」が家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任の請求をする旨を定めておく必要があります。
「身上配慮の責務」について
受任者である後見人に対し、責務として本人の意思を尊重してもらうことや、身上へ配慮した後見活動をしてもらうためにも、ヘルパーや医師・医療機関との連携を密に取ってもらうよう、契約内容に定めておいた方がよいでしょう。
どのような機関との連携を取れば本人に対する身上の配慮に繋がるかを検討し、条項として内容を定めておく必要がありますので、自身の状況によってアレンジをしてください。
「ライフプラン」について
前条の「身上配慮の責務」と同様に、より自身の意思を尊重してもらいたい場合に盛り込んでおいた方がよい条項となります。
本ひな形では、別紙「ライフプラン」として作成していますが、
- 介護・施設に関してはどのような介護方法を希望するのか
- 自宅介護を希望するのか、施設ならどのような施設を希望するのか
- 医療や病院についてはどのような選択を希望するのか
- その他希望することはあるのか
ライフプランとしての希望を契約に盛り込み、可能な限り自身の意思を実現してもらうためにも、また受任者である後見人が後見活動の具体的な方向性を判断するうえでも、本人の意思が明確であった方が適切な選択ができます。そのため「任意後見契約書」を作成する際には、ぜひご検討いただきたい内容になります。
「証書等の保管等」について
後見事務手続きを遂行するうえで、重要な証書類を後見人に引き渡す必要が出てきます。その際の重要な証書類に関する保管等についての内容を具体的に定めておくことが重要です。
この他にも、任意後見人に対して、郵便物の受領・開封を認める内容を追加内容として盛り込むケースも考えられます。
「書類の作成」について
任意後見人が後見事務を適切に遂行していることが第三者の目からも確認できるように、「書類の作成」に関する内容を明確に契約書に盛り込んでおくことは重要です。
「費用の負担」について
費用の負担については、「本人の負担とし、後見人が管理する本人の財産から支出できることとする」という内容が一般的ですが、任意に設定することも可能です。
「報酬」について
報酬についても、前条と同様に本人と任意後見人との間で取り決めた内容で設定することが可能です。
ですので、本ひな形では、「無報酬」とするケースと「報酬あり」のケースを盛り込んでいますので、いずれかを選択してください。
家族等が任意後見人に選任される場合は、「無報酬」とするケースも考えられます。適宜、相手方と話し合って報酬の設定をしてください。
「報告等」について
法律上、任意後見監督人は任意後見人に対して、後見事務の報告をいつでも求めることができるように定められています。
そのため、あらかじめ3か月ごとなどの定期的なスパンで報告することを契約書にて定めておくことが一般的です。
頻度は自由に設定できますが、任意後見監督人からの報告請求にはすぐに対応しなくてはならないため、急に請求されて困らないようにするためにも、ある程度の定期的な頻度で設定しておくのが望ましいです。
「契約の解除」について
任意後見契約は法定後見制度とは異なり、委任契約になるので契約解除することも可能です。
ただし、その時期により、解除の方法が異なります。
1.任意後見監督人が選任される前の時期については、特段の理由も必要なく「いつでも」契約解除できます。
ただし、手続きには「公証人の認証を受けた書面」が必要となります。
2.任意後見監督人が選任された後の時期については、家庭裁判所の許可が必要になります。
そのため、本人の保護が不十分とならないような正当な事由がある場合でなくてはなりません。
「契約の終了」について
任意後見契約は委任契約となりますので、民法で定められている「契約終了の事由」が発生すれば、契約は終了します。
「守秘義務」について
任意後見契約に法律上の守秘義務はありませんが、委任契約における「善管注意義務」はあります。
受任者である後見人が士業等の専門家であれば、士業としての守秘義務があるのでよいのですが、家族等が受任者である場合には、明確な守秘義務はありませんので、契約内容として「守秘義務」を盛り込んでおいた方がよいでしょう。
まとめ
「任意後見契約」は、自身の療養看護や財産の管理をどのようにしてもらいたいかを、ご自身の意思で任意の後見人との間で締結できる契約です。
自ら選んだ信頼できる後見人候補者との契約は「終活」の重要な要素のひとつといえるでしょう。
「任意後見契約書」は公証役場において公証人が作成する必要があるため、法的に必要な事項は安心して任せられます。
しかし重要なのは、受任者である後見人に付与する「代理権の範囲」や、後見開始後に希望する形で療養看護等にあたってもらうもらうための「ライフプラン」や「身上配慮の責務」については事前によく検討し、準備しておくことです。任意後見契約を通じて自分の意思を反映し目的を果たすうえで大事なポイントとなります。
ぜひ、本ひな形や解説を「任意後見契約書」の作成準備に活用してください。
執筆者情報
エニィタイム行政書士事務所 代表 中村 充(行政書士)早稲田大学商学部卒業後大手通信会社に入社、法人営業や法務業務に携わる。2009年に行政書士資格を取得し、2017年、会社設立及び契約書作成に特化した事務所を開業。弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士等各種専門家との連携体制を構築し、企業活動のバックオフィス業務すべてのことをワンストップで対応できることも強み。
プロフィールを見る >行政書士KIC事務所 代表 岸 秀洋(行政書士・銀行融資診断士)司法書士事務所での勤務を経て、2006年に行政書士試験に合格、2014年に行政書士登録開業する。司法書士事務所勤務時代から約100件以上の会社設立サポートを経験してきたなかで、単なる手続き業務にとどまらない伴走者としてのサポートをしていきたいと考えるようになる。事業計画・損益計画の作成から融資のサポートや資金繰り計画など財務支援までおこなうのが強み。
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