長時間労働の改善を目指す!変形労働時間制の導入のために

最終更新日:2019年07月09日

長時間労働の改善を目指す!変形労働時間制の導入のために
月末は忙しいけれど、月初から中旬はヒマ、あるいは夏はヒマだけど年度末は忙しい…など、月単位、または1年単位で繁閑に差がある企業や職種は意外とあるものです。変形労働時間制は、このように繁閑の差が大きい企業の悩みを解決する方法の一つとして注目を集めています。
長時間労働の是正が求められる中、この制度を導入を検討する企業もあるかもしれません。導入・運用にあたっての注意点などを確認するとともに、協定書作成や労働時間管理に使えるテンプレートを紹介します。
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労働時間を柔軟にする変型労働時間制

働く人を守る法律、労働基準法によって、労働時間は1日に8時間、または週40時間が上限として定められています。しかし、繁閑の差が大きい企業では、この基準を守ることが労働者にとっても、企業にとっても効率を悪くする、というデメリットがあります。たとえば、仕事が少ない時期でも定時まで会社にいなければならず、忙しい時期は残業がどんどん増えてしまう…など。これでは、働く人の健康にも良くありませんし、企業側にとっても残業代の支出ばかりが増えていきます。
変形労働時間制は、こうした企業の長時間労働の改善に役立つ労働時間制度です。一定の条件のもと、繁閑期に合わせて労働時間を設定できるようにする制度です。

変型労働時間制の種類は、
(1)1ヶ月単位の変形労働時間制
(2)1年単位の変形労働時間制
(3)1週間単位の非定型的変形労働時間制
(4)フレックスタイム制

の4種類があります。
導入のための要件を守り、正しく制度を運用すれば労働者と企業の双方にとってメリットのある制度です。

フレックスタイム制については別の機会に扱うこととし、ここでは(1)から(3)の、1ヶ月または1年単位の変形労働時間制、そして特定条件・事業にのみに適用される1週間単位の非定型的変形労働時間制について説明します。

1ヶ月単位の変形労働時間制とは

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月間の労働時間をならして、週の平均が40時間を超えなければ、1日8時間、あるいは週40時間を上限とする法定労働時間を超えた労働が可能になる制度です。

たとえば、月末が忙しい企業や部門であれば、月の前半は午前9時から午後4時までを就業時間として、休憩1時間を除く6時間の勤務とし、後半は午前8時から午後7時までを就業時間として、休憩1時間を除いて10時間勤務とする、といった変則的な労働時間の設定が可能になります。または、月の後半に長めの就業時間を設定し、それ以外の時に休日を増やす方法も選択できます。

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内のある一定期間を対象に設定できるので、最大1ヶ月のほか、4週間を1つの単位として設定することなども可能です。

必要な手続きや届出

1ヶ月以内の変形労働時間制を導入する場合、労使協定または就業規則(またはこれに準ずるもの)でこの制度について定める必要があります。具体的に決めなければならないのは、以下の項目となります。

■規定事項
・対象となる労働者の範囲
・変形労働期間の所定労働時間
・対象期間および起算日
・対象期間中の労働日と各日の労働時間
・労使協定に定める場合、協定の有効期間


なお、所定労働時間は次の範囲内で設定する必要があります。

対象月の日数労働時間の上限
31日の月177.1時間
30日の月171.4時間
29日の月165.7時間
28日の月または4週間160.0時間


以上を決めると変形労働時間制を導入する要件が整います。これを制度として労働者に義務づけるためには、就業規則に定める必要があり、所轄の労働基準監督署長へ届け出なければなりません。

協定書の作成には「1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定書」テンプレートをご利用ください。

労務管理のテンプレート紹介
1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定書

1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定書

法定労働時間「1日8時間、1週40時間」の例外として「変形労働時間制」があり、「1ヶ月単位の変形労働時間制」では、1ヶ月以内の一定期間を平均して週40時間以下の範囲内であれば、特定の日・週に関して法定労働時間を超えて労働させることができます。ただし、その場合の労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があり、その際に使用する書式です<様式第3号の2(第12条の2の2関係)>。

1年単位の変形労働時間制について

1年単位の変形労働時間制は、繁閑期が1ヶ月単位では収まらない、季節によって繁閑の差が出る業種に役立つ制度です。
1ヶ月を超え、1年以内の一定期間で、週の平均労働時間が40時間を超えないように労働日や労働時間を設定することができ、特定の日や週の労働時間が法定労働時間を超えることが可能になります。

しかし、1年という長いスパンのなかでの変形となるため、繁忙期が長かったり、あまりにも労働が集中してしまったりすると労働者の心身への負担が大きくなることもあり、導入の要件はより厳しく、制限も多くなっています。

必要な手続きや届出

1年単位の長い変型労働制を導入するには、従業員との間で労使協定を結ぶ必要があります。その際、以下の内容で協定を書面にて締結後、所轄の労働基準監督署に届け出ます。

■規定事項
・対象となる労働者の範囲
・対象期間および起算日
 対象期間中の特に業務が忙しい期間を特定期間として記載
・対象期間中の労働日と各日の労働時間
・労使協定の有効期間


なお、変形期間中の所定労働時間は次のように計算します。

 変形期間中の所定労働時間 ≦ 40時間 × 変形期間中の歴日数 ÷ 7

労使協定の締結に際しては「1年単位の変形労働時間制に関する労使協定」テンプレートを参考にしてください。

労務管理のテンプレート紹介
1年単位の変形労働時間制に関する労使協定

1年単位の変形労働時間制に関する労使協定

法定労働時間「1日8時間、1週40時間」の例外として「変形労働時間制」があり、「1年単位の変形労働時間制」では、1年以内の一定期間を平均して週40時間以下の範囲内であれば、特定の日・週に関して法定労働時間を超えて労働させることができます。その場合、労使協定を締結して労働基準監督署長に届け出る必要がありますが、これは、会社と労働組合との間で取り交わす協定書のテンプレートです。また、これとは別に、年間カレンダーなどで所定労働日、各日の所定労働時間などがわかるような資料を作成し、合わせて協定を結ぶようにしてください。

労働時間・日数の上限について

1年単位の変形労働時間制の場合、繁忙期は長期にわたって負荷がかかることも考えられるため、労働日数や1日の労働時間、1週間の労働時間など、上限が定められています。

<労働時間の制限>
・1日の労働時間の上限=10時間
・1週間の労働時間の上限=52時間

対象期間が3ヶ月を超える場合、さらに次の条件が付加されます。
・連続して「48時間を超える週所定労働時間」が設定できるのは3週以内
・対象期間を3ヶ月ごとに分けた期間内において、所定労働時間が48時間を超える週は、週の初日で数えて3回以内

<労働日数の制限>
・1年あたりの労働日数の上限=280日 ※対象期間が3ケ月を超える場合
  変形期間中の労働日数の上限 = 280日 × 変形期間中の歴日数 ÷ 365(閏月のある年は366)

対象期間に連続して労働させる日数にも限度があります。
・連続して労働させる日数は6日(1週間に1日の休み)
ただし、特に忙しい時期を特定期間として設定した場合、「1週間に1日の休みを確保できる日数」となり、最長12日間連続で労働させることが可能になります。

1週間単位の変形労働時間制について

1週間単位の変形労働時間制は、労働者が30名未満の小売業・旅館・飲食店などに限って導入できる制度です。1週間単位で毎日の労働時間を柔軟に決めることが可能です。

導入にあたっては、以下の事項を就業規則(またはこれに準ずるもの)に定め、労使協定を締結して、所轄の労働基準監督署に届け出ます。

■規定事項
・1週間の労働時間は40時間以下
・40時間を超えた場合は割増賃金を支払う


1週間単位の変形労働時間制の場合、週の労働時間が40時間以内であれば、1日10時間までの労働が可能です。

変型労働時間制のメリット

変形労働時間制を導入するメリットには、どんなものがあるでしょうか?

◎労働者のワークライフバランスが整う
仕事がないのに終業時刻まで時間があるからといって会社にいるのは、時間と労力の無駄です。閑散期は思い切って早く帰るなど時間が有効に活用できれば、ワークライフバランスを整えるのにも役立ちます。

◎企業側は残業代が抑制できる
仕事がなくても、従業員を会社(職場)に拘束することで賃金が発生します。一方、忙しくなって時間外まで業務がおよべば今度は残業代が発生します。しかし変形労働時間制を導入することによって繁忙期の所定労働時間を長く設定できますので、残業代を減らすことができます。

変型労働時間制のデメリットと問題点

変形労働時間制はメリットも大きいのですが、デメリットもあります。導入を検討する場合は、デメリットについても考慮する必要があります。

◎労働時間の管理が煩雑
変形労働時間制は長時間労働の削減を目的としていますから、その目的から外れないよう、導入にあたっては規則・制限がたくさん設けられています。そのため、日ごと、週ごとの勤怠管理が煩雑になります。
また、就業時間が一定していれば「何時以降は時間外労働」ということがわかりやすいのですが、変形労働時間制の場合、期間によって所定労働時間が異なるため、残業時間の算出・計算も複雑になります。

◎企業内の就業時間のズレによる影響
変形労働時間制を採用しているのが一部の部署だけ、という場合もあります。就業時間が異なることによって不公平感が生まれたり、部署間でやり取りできる時間が限られる、という側面もあります。

シフト表と勤怠管理

変動労働時間制は、1ヶ月単位、1年単位に限らず「変形する期間中の労働日と各日の労働時間」を前もって確定する必要がある制度です。事前に決まった労働日や時間をシフト表などで明示し、それに基づいて勤怠管理をおこないましょう。
なお、期間の途中で一方的にシフトを変更することはできませんので、注意してください。

1ヶ月単位の変形労働時間制で使えるシフト表テンプレートもご用意していますので、どうぞご利用ください。

労務管理のテンプレート紹介
月間シフト表 労働時間計算付

月間シフト表 労働時間計算付

1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する会社・部門で使える、エクセル形式の月間シフト表テンプレートです。早番、遅番など4パターンのシフトが書き込めます。始業時刻・終業時刻・休憩時間を入力すると1日の労働時間が算出され、さらに1ヶ月分の合計労働時間が算出されるようになっています。法定労働時間の枠内に収まるかを確認しながらシフトを組むことができます。
※サンプルデータは削除してください。また、行数や計算式を変更したりする場合はシートの保護を解除してからおこなってください。

まとめ

繁閑期の差が大きい企業では、変形労働時間制を導入することは労働者にとっても企業としてもメリットがあります。とはいえ、正しく運用しなければそのメリットはお互いに享受できません。
運用のための仕組み作り、そして従業員への周知をしっかりとおこない、長時間労働を減らしワークライフバランスに配慮した労働環境を整えていきましょう。

■参考サイト・資料
「週40時間労働の実現」厚生労働省
『やまがた労働情報』/山形県商工労働部雇用対策課
『労働関係法令の解説』/雇用労働相談センター



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