業務委託契約書における注意点とは?気をつけるべきことをチェックリストでご紹介
最終更新日:2024年12月17日

本記事では、業務委託契約書における注意点を委託側と受託側双方の立場から解説します。外部への業務委託を検討している企業の担当者の方や、フリーランスの方はぜひ参考にしてください。
- 業務委託契約書とは?
- 業務委託契約書の記載内容と書き方
- 業務委託契約書の委託側(作成者)の注意点/チェックリスト
- 委託内容
- 損害賠償について
- 契約の解除について
- 再委託について
- 下請法の対象となっていないか
- 業務委託契約書の受託側(受注者)の注意点/チェックリスト
- 業務内容
- 報酬・料金の金額・計算方法
- 損害賠償について
- 契約の解除について
- 再委託について
- まとめ
業務委託契約書とは?
業務委託契約書とは、『企業が他社や個人に対して、業務の一部または全てを委託する「業務委託契約」を締結する際に作成する契約書』です。民法上、契約は口頭でも成立するため、業務委託契約書の作成は必須ではありません(ただし、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス新法」といいます)適用対象の取引は取引条件の明示は必須となります)。
しかし、委託する業務の内容や範囲、契約期間、報酬の支払い方法などについて明確に取り決めをしておかないと、後々トラブルに発展する恐れがあります。そのため、業務委託をおこなう際は、業務委託契約書を作成しておくことが推奨されます。
なお、業務委託契約には以下の3種類があり、報酬の支払い基準などが異なります。
名称 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
請負契約 | 委託元が求める完成物の納品(仕事の完成)に対して報酬が支払われる形態の契約 | ・ライターやWebデザイナーにコンテンツ作成を委託する ・建設業者に工事を委託する など |
委任契約 | 法律行為を委託し、行為自体に対して報酬が支払われる形態の契約 | ・弁護士が訴訟の対応を受ける ・税理士に確定申告の手続き補助を委託する など |
準委任契約 | 法律行為以外の事務処理を委託し、行為自体に対して報酬が支払われる形態の契約 | ・コンサルタントにコンサルティングを委託する ・医師に医療行為を委託する など |
請負契約と委任・準委任契約は、それぞれ報酬の支払いタイミングや基準が異なるため、自分が締結する業務委託契約がどの契約に当たるのかも明確にしておくとトラブルを防げるでしょう。
業務委託契約書の記載内容と書き方
業務委託契約書は、業務委託の内容を明確に記し、委託側と受託側で認識のズレが生じないようにするために作成します。具体的な契約書の記載内容として、以下のようなものが挙げられます。
- 契約の目的
- 業務の内容
- 報酬の金額と支払い方法
- 支払期日
- 納品先・役務提供場所
- 契約期間
- 契約解除に関する条件
- 著作権の帰属先
- 秘密保持条項
- 紛争解決の手段 など
まず、契約の目的や依頼する業務の具体的な内容を明確に記載しましょう。業務の範囲が曖昧だと、追加の作業が発生した際の報酬の有無などでトラブルが起きやすいため注意しましょう。
次に、報酬の金額と支払い方法の記載も大切です。報酬の発生単位や支払いタイミングについて明確に定めておくことで、信頼関係を構築できるでしょう。
また、業務の遂行期限や契約期間などについても記載しておきましょう。業務委託契約においては、業務の内容によって契約期間は様々です。契約期間を定める場合は、期間中の契約解除に関する条件も合わせて記載するのがおすすめです。
さらに、著作権などの成果物の権利についての取り決めも明記しておくことが望ましいです。受託者が作成した成果物の使用権がどちらに帰属するかを明確にしておくことで、後々のトラブル回避に役立ちます。
最後に、紛争解決の手段や準拠法についての記載も忘れてはいけません。委託者が契約書を作成する際には、内容が法的に問題ないか弁護士や司法書士、行政書士等法律の専門家に確認しておくのがベストです。
業務委託契約書の委託側(作成者)の注意点/チェックリスト
業務委託契約書は、業務を委託する側が作成するケースが多いです。業務委託契約書を作る際は、特に以下の5点について漏れなく記載できているかチェックしておきましょう。
- 委託内容
- 損害賠償について
- 契約の解除について
- 再委託について
- 下請法の対象となっていないか
それぞれ簡単に紹介していきます。
委託内容
業務委託契約書を作成する際、最も重要な点の一つが委託内容の具体的な記載です。
委託する業務の範囲を曖昧にすると、双方の認識にズレが生じ、後のトラブルにつながる可能性があります。そのため、業務の詳細や手順、納期、成果物の品質基準などを明確に定義しておくべきです。
また、追加の業務が発生する場合の報酬基準などについても記載しておくと、スムーズな業務遂行が可能になるでしょう。業務委託契約書を作成して委託先に渡す前に、業務内容や範囲について曖昧な部分がないかよく確認しておくのがおすすめです。
損害賠償について
契約書には、委託業務の不履行や遅延が発生した場合に備えて、損害賠償に関する条項を盛り込んでおきましょう。委託先が、契約書によって約束された業務を適切に遂行しなかった場合、委託側が被る損害について明確に規定することで、リスクを最小限に抑えられます。
損害賠償については、損害賠償範囲や責任を負う期間などを定めておくのが一般的です。契約上の責任範囲を明確にしておくことで、万が一委託先とトラブルになった際や、裁判に発展した際の対応をスムーズに進めることができます。また、著作権等の知的財産権侵害時の扱いについても明確になっているかも確認しておくのがおすすめです。
契約の解除について
業務委託契約では、契約解除の条件などについても契約書で取り決めておく必要があります。業務委託契約では、業務を委託する期間について、「1か月」「1年」などの契約期間を定めておくのが一般的です。
その期間内で業務遂行が不可能になった場合や、委託先の重大な契約違反が発生した場合の契約解除の条件を明確にしておくと安心です。
また、業務の途中で解約できる任意解約についても検討すべき事項となります(フリーランス新法適用取引の場合30日以上前通知が必要になります)。
再委託について
再委託に関する取り決めも業務委託契約書の重要な要素なので記載漏れがないようにしましょう。再委託とは、委託先がさらに第三者に業務を再委託することを指します。
業務委託契約のうち、委任契約や準委任契約については、受託側の技術や信頼をもとにした契約であるため、民法第644条の2によって委任者の許諾を得た場合またはやむを得ない事由がある場合以外の再委託は原則禁止されています。
その一方で、請負契約は成果物の完成を目的とした契約であるため、契約当事者が第三者に再委託することは禁止されていません。
しかし、成果物の品質および秘密保持の観点から、委託側が再委託を禁止したい場合は、その旨について業務委託契約書に明記しておきましょう。また、再委託を許可する場合ですが、望ましいのは委託側の事前承諾を得る、事前承諾が難しい場合でも最低限再委託業務内容や再委託先について事前通知とする旨規定しておきましょう。
再委託が適切に管理されない場合、業務品質の低下や責任の所在が曖昧になるリスクがあるため、契約書には再委託に関する詳細なルールを記載しておくことが重要です。
下請法の対象となっていないか
業務委託契約が下請法の対象となるかどうかも注意が必要です。下請法とは、親事業者と下請事業者の間で取引条件の公正さを確保するための法律です。
下請法の対象になるかどうかは、取引当事者の資本金や取引の内容によって異なります(参照:下請法の概要|公正取引委員会)。以下のような業務委託契約の際に、下請法が適用されるケースがあります。
【下請法の対象になる可能性がある業務委託】
業務委託形態 | 具体例 |
---|---|
製造委託 | 精密機器メーカーが、受注生産する精密機械に用いる部品の製造を部品メーカーに委託する |
修理委託 | 自動車ディーラーが、請け負った自動車の修理作業を修理会社に委託する |
情報成果物作成委託 | ソフトウェアメーカーが、ゲームソフトや汎用アプリケーションソフトの開発を別のソフトウェアメーカーに委託する |
役務提供委託 | 自動車メーカーが、販売した自動車の保証期間内のメンテナンス作業を自動車整備会社に委託する |
これらの形態で委託し、委託側と受託側で資本金に大きな差がある場合は、委託側が優位的立場に立つ恐れがあるため、下請法によって受託側の権利が保護されます。具体的には、取引条件を未交付や、委託側が一方的に報酬を削減したり、納品後に契約条件を変更するなどが違法となります。
業務委託契約書を作成する際は、該当の契約が下請法の対象となるかどうかをしっかり確認することで、法的トラブルを避けることができるでしょう。
業務委託契約書の受託側(受注者)の注意点/チェックリスト
個人事業主やフリーランスの方が企業と業務委託契約を締結し、企業から提示された業務委託契約書にサインする際は以下の5点をよく確認しましょう。
- 業務内容
- 報酬・料金の金額・計算方法
- 損害賠償について
- 契約の解除について
- 再委託について
参考)フリーランス新法で押さえるべきポイントと契約書の注意点を徹底解説!
業務内容
受託側が業務委託契約書を受け取る際、最初に確認すべきポイントは業務内容です。業務の範囲が曖昧であったり、具体的な指示が不足していたりする場合、委託側の期待と受託側の認識に食い違いが生じる可能性があります。
そのため、業務の詳細、納期、成果物の基準をしっかり確認し、不明な点は契約前に確認しましょう。また、業務の変更や追加が生じた場合の対応についても明記されているか確認しておくことも大切です。
具体的かつ詳細な業務内容が契約書に反映されていれば、委託元と信頼関係を構築しながら業務に取り組めるでしょう。
報酬・料金の金額・計算方法
報酬の金額や計算方法も重要な確認ポイントです。特に、成果報酬制の場合、報酬の計算方法が明確に記載されているかどうかを確認しましょう。
また、消費税や交通費、材料費などの経費がどのように取り扱われるのかも重要です。支払期日や支払い方法も具体的に契約書に記載されているか確認することが必要です。
報酬に関する条件が曖昧な場合、後からトラブルが発生しやすいです。報酬の条件をしっかりと理解し、納得した契約を結べるようにしましょう。
損害賠償について
受託業務において何らかの理由で契約を遂行できなかった場合の損害賠償責任は、受託側にとって大きなリスクとなるため注意が必要です。
契約書に損害賠償の上限が設定されているか、その範囲が合理的かどうかを確認しておきましょう。特に、故意や重大な過失がなくても過大な損害賠償責任を負うリスクがある場合は、契約条件の見直しが必要かもしれません。
契約の解除について
契約解除の条件についても事前に確認する必要があります。
民法上は、業務委託契約の中でも請負契約については、委託側は完成部分の割合に応じた請負代金の支払いおよび受託側に対して契約を打ち切ることによる損害賠償を支払えばいつでも契約を解除できる決まりになっています。(民法第634条2号・民法第641条)
請負契約では、急に契約を解除されるリスクがあるため、解除理由や事前通知の期間が具体的に記載されているか確認してください。特に、解除の際に報酬の支払いがどうなるのかや、進捗状況に応じた報酬の精算方法が明確でないと、業務を行ったにもかかわらず報酬が支払われないリスクがあるため注意しましょう。
再委託について
業務を他の第三者に再委託することができるかどうか、契約書に明記されているか確認することが重要です。民法上、委任契約や準委任契約においては再委託は禁止されていますが、請負契約では成果物の納品自体が目的となるため、再委託は制限されていません。
しかし、契約上の特記事項として再委託が禁止されている場合は、その取り決めに従う必要があります。再委託が禁止されている場合は自分のみで業務を遂行しなければならず、リソースが不足する可能性があるため、業務のボリュームや難易度により受託数を調整する必要があるでしょう。
また、再委託が許可されている場合でも、委託側の承認が必要な場合が多いです。再委託先で問題が発生した場合に受託側が全責任を負うリスクもあるため、再委託に関する契約条件をしっかり把握し、適切な対応策を講じることが求められます。
まとめ
本記事では、業務委託契約書を作成する際・受け取る際の注意点を紹介しました。
業務委託契約は、雇用契約とは異なり、委託側と受託側が対等な立場のもと結ぶ契約となっているため、契約書の内容についてはお互いがよく確認する必要があります。
業務委託をする場合は、相手が個人であっても企業であっても、適切な業務委託契約書を作成し、業務内容について齟齬が生じないように心がけましょう。
監修者情報
エニィタイム行政書士事務所 代表 中村 充(行政書士)早稲田大学商学部卒業後大手通信会社に入社、法人営業や法務業務に携わる。2009年に行政書士資格を取得し、2017年、会社設立及び契約書作成に特化した事務所を開業。弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士等各種専門家との連携体制を構築し、企業活動のバックオフィス業務すべてのことをワンストップで対応できることも強み。
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業務委託契約書のテンプレート紹介
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業務委託契約書は、業務を外部に委託する場合に、委託内容や期日・契約期間、報酬、秘密保持などの契約内容を明記し、委託者と受託者の間で取り交わすものです。
業務内容や取引条件を明文化することにより、双方が共通認識を持ち、トラブルを防止することができます。
業務委託契約には「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3タイプがあります(準委任契約は委任契約の一種ですので「委任契約」と記載されることもあります)。
ソフトウェア開発やデザイン制作、建設工事など、仕事の完成を目的とし、成果物の完成・引き渡しをもって報酬が支払われるものを「請負契約」と言います。
一方、業務の遂行を目的とし、成果物ではなく業務の遂行そのものに対して報酬が支払われるものを「委任契約」と言います。そのうち、訴訟や契約交渉など法律行為を委任する場合は「委任契約」、保守・管理業務や事務処理など法律行為以外の業務を委任する場合は「準委任契約」と言います。
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