運送業の2024年問題とは?事業者が対応すべき6つのこと
最終更新日:2024年03月11日
元々人手不足が懸念されていた運送業界は、2024年を迎える前に自社の体制を整える必要があります。
本記事では、運送業の2024年問題の概要や具体的なリスク、事業者がとるべき労務関連の取り組み、輸送力を維持する方法について解説します。
運送業の2024年問題とは
運送業の2024年問題とは、働き方改革関連法の適用により運送業に起こり得る物流遅延のリスク全般を意味します。
- 時間外労働の上限規制の適用
- 改正改善基準告示の適用
具体的になにが原因で2024年問題が起きるのか、その概要を把握しましょう。
時間外労働の上限規制
2024年4月より、労働基準法の時間外労働の上限規制がトラックドライバーに適用されます。
労働時間が短くなることで物流が滞ると懸念されています。
2019年4月に改正された労働基準法では、時間外労働の上限が原則月に45時間以内、年間360時間までです。
しかし、運送業は業務の特殊性・取引慣行の課題があるため、改正後の労働時間上限適用が5年間猶予されていました。
また、一部については特例付きで適用されます。
時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする規制が適用されません。
時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用されません。
【引用】時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省
しかし、現実的に残業を年間960時間に抑えることが難しい、と考えている事業者も多いです。
厚生労働省は労働法改正に伴い、トラックドライバーの適正な拘束基準の目安も変更しました。
改正前は3,516時間が目安とされていましたが、改正後は3,300時間に下がります。
(【参考】自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示) |厚生労働省)
しかし、厚生労働省が発表した「参考資料3 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」によると、未だに20〜30%のドライバーの労働時間が3,300時間以上です。
つまり、今後はドライバーの労働時間がより短縮化し、十分な物流を担保できない可能性があります。
違反した場合の罰則
運送業は業務の特殊性もあり、長時間労働が常態化しています。しかし、2024年4月以降は労働上限の規制を守らなければなりません。
万が一違反した場合、労働基準法違反として事業主が罰則を受ける可能性があります。
「労働基準法 第十三章 第百十九条」によると、違反した場合の罰則は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
2024年4月以降は従業員の労働時間の管理をより正確におこなう必要があります。
改正改善基準告示の適用
時間外労働時間の上限960時間は、改正改善基準告示によるものです。
自動車運転者の労働時間などの改善のための拘束時間上限と休憩時間についての基準です。長時間労働の実態にある、ドライバーの健康および国民の安全確保の観点から定められています。
【参考】トラック運転者の改善基準告示
改正前と改正後のポイントをまとめました。
期間 | 現行 | 2024年4月以降 |
---|---|---|
年間拘束時間 | 3,516時間 | 3,300時間(原則) |
月間拘束時間 | 原則293時間 最大320時間 | 原則284時間 最大310時間 (年間の拘束時間が3,400時間を超えない範囲で、 年間6回まで) ※284時間を超える月が3ヶ月以上連続しないようにする ※月間の時間外・休日労働が100時間未満となるよう 努力義務がある |
1日の休息期間 (勤務終了後の 休息期間) | 継続8時間 | 継続11時間を原則 下限は9時間 (長距離・宿泊が必要な場合は、運行を早めに切り上げ、 まとまった休息を取れるよう例外規定あり) |
2024年4月からは上記基準が適用されるため、大きくドライバーの稼働時間が減ることとなります。
事業者側は、休息期間を含めたシフトを組み、労働時間が適正な範囲に収まるようにしなければなりません。
運送業の2024年問題において、日本全国で懸念されていること5選
運送業の2024年問題で懸念されている問題は主に5つあります。
輸送能力の低下
ドライバーの労働時間が短くなるため、輸送能力が低下します。
インターネットショッピングの影響もあり、運送業界は2024年問題の前から人手不足が問題視されていました。
「一般職業紹介状況(令和5年6月分)について | 厚生労働省」(参考統計表)によると、自動車運転従事者の有効求人倍率は2.68倍(常用(除パート))と、需要に対して就職件数が圧倒的に少ない状態です。
ドライバーが不足している状態で2024年に突入すると、トラックの輸送能力は2024年には14.2%、2030年には34.1%不足する可能性があります。(【参考】知っていますか?物流の2024年問題 | 全日本トラック協会 | Japan Trucking Association)
事業者としては、依頼された宅配件数をこなせず、仕事の受注量を減らす決断を迫られる可能性があります。
食料不足
輸送力の低下に伴い、生鮮食品が供給されなくなります。鮮度の高い肉や魚、野菜を食料品店に届けられなくなるためです。
2024年問題は、運送業界だけでなく一般家庭にも大きな打撃を与えます。
ドライバーの収入減少
ドライバーの労働時間が減るため、手取り収入の減少も不安視されています。
ドライバーの生活確保のためにも、事業者として賃金を上げられるように対策を講じる必要があります。
人手不足
2024年4月以降も通常通りの輸送を続けるには、雇用するドライバーを増やす必要があります。しかし、現場の有効求人倍率を見ても人材確保が容易とはいえません。
事業者側は人材確保を見据えて、早急に自社の労働環境整備や待遇改善に取り組む必要があります。
輸送のコスト増加
通常通りの輸送ができないため、事業者が収益を確保するためには送料を上げるしかありません。荷主・消費者側に対して料金の値上げが必要です。
ただし、料金の改定に伴い荷主からの依頼件数が減少する懸念もあります。適正な金額をよく精査し、他社の動向を見て賃料設定しましょう。
2024年問題に向けて必要な労務関連の取り組み
事業者が2024年問題に向けて取り組むべき労務関連の業務を紹介します。
ドライバーの給与体系の見直し
深刻な人材不足が懸念されるため、給与体系の見直しが必要です。労働時間減少で手取り収入が減ればほかの業種へ転職を考えるドライバーも増えるでしょう。
また、就職希望者へのアピールのために魅力的な給与体系が必要です。
賃金アップは事業者にとって負担ですが、輸送量の低下によって受注できる依頼が減れば収入も減少します。輸送力を確保するためにドライバーへの待遇改善は必須です。
週休2日制の導入、有給休暇の取得促進
ドライバーは過酷かつ労働時間が長い仕事というイメージがあり、就職希望者も少ないです。労働環境の改善でドライバー希望者を募り、新規就職希望者を増やしましょう。
また、既存ドライバーの健康確保および労働基準法遵守のために週休2日・有給休暇の取得促進は重要です。
慣習的に週休1日、有給休暇を取得しないドライバーも多いですが、今後は事業者側から積極的に働きかけましょう。
キャリアパスの明示
事業者は自社のキャリアパスを明確化しましょう。慣習的に、勤務年数や年齢に合わせて昇給・昇進をランダムにさせていた企業も多いはずです。
しかし、その方法では目的意識なくただ日々の業務をこなすだけになってしまうため、ドライバーのモチベーションが保てません。
昇給の条件や必要なスキルを明確にすればドライバー自身がなにを頑張れば良いかわかり、意欲を持って働けます。
女性、高齢者に働きやすい職場づくり
ドライバーは男性が大部分を占め、女性や高齢者には向かない仕事とされていました。しかし現在、労働力確保のために女性や高齢者を雇用する動きが推奨されています。
手積み・手降ろしの荷役を削減してパレット輸送を実施するなど、負担を軽減する環境を構築しましょう。
また、女性や高齢者特有の健康問題に配慮した仕組みを整えなければなりません。
たとえば、女性就業者を増やすにあたって以下のような対応が必要です。
- トイレの整備
- 女性の体格に合った道具の導入
- 泊まり勤務の改善
- 短時間労働制
- 月経に関しての理解
- 託児所の開設
子どもがいる母親の場合は、託児所が利用できる、泊まり勤務が免除される、または短時間労働が可能など柔軟な体制が必要です。
また、女性特有の月経痛などに対して会社側で理解を深め、対応策を考えましょう。
同時に、高齢者が働きやすい環境構築も重要です。
「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省」によると、運輸業・郵便業に従事する年代のボリュームゾーンは40代から60代がほとんどを占めています。
今後は人材不足を改善するため、60代以上の高齢者の雇用も必要です。
- 労働時間の短縮化
- 重い荷下ろしなどをロボットでおこなう
- 運転研修
労働時間が短くなるよう、計画的に配送を割り振りできるようにする、また高齢者の運転スキルも考えて、適宜研修の導入も有効です。
女性や高齢者を労働力として雇用し、2024年問題に備える必要があります。
ホワイト物流推進運動への参画
「ホワイト物流推進運動」とは、荷主企業と物流事業者が連携し、物流の改善に取り組む運動です。
ホワイト物流推進運動への参加で、荷主との運賃改訂の交渉や取引先の選定がスムーズになる効果が期待されています。
運送事業者は取り組みやすい物流改善行動に賛同したうえで、事務局に対して「自主行動宣言」書類を提出します。
宣言後は事業者ごとに取り組みを開始し、取り組み状況の集計や公表を実施します。
運送業者間で物流状況の改善取り組みについて情報共有できるため、他業者から参考になる情報を得られる可能性があるでしょう。
運送内容の見直しや契約の方法、相手方の選別など取り組みやすいものから始めてください。
2024年問題解決のために事業者がすべきこと
2024年問題を迎える間に、事業者がしておくべきことを紹介します。
リードタイムの改善
運送業界ではリードタイムの短さも問題となっています。近年翌日配送を取り入れる通販サイトが増え、ドライバーの負担も増えました。
たとえば、長距離輸送の場合は中1日を空けて輸送することでトラックに荷物を満載して効率的に荷物を運べます。
リードタイムを短くするよりも、延長して配送効率を上げる工夫が必要です。
運賃の改善
輸送コストの上昇が見込まれるため、運賃の改善も検討しましょう。料金据え置きのまま営業していると事業が成立しなくなります。
また、会社の収益が増えなければドライバーへの待遇改善も困難です。
運送事業者は適切な運賃を収受するよう努め、安価すぎる場合は適正料金に改訂すべきです。
高速利用料や燃料代、作業費用など運送以外に発生する料金も含めて計算し、運賃を改善しましょう。
再配達削減
ドライバーを苦しめている要因のひとつが再配達です。運送事業者からも、受け取れる日時の設定を受け取り主に依頼するよう努めましょう。
また、荷物を直接渡さずに宅配ボックスへ置き配する仕組みを導入する方法もおすすめです。
可能であれば荷物の受け取りロッカーを配置し、受け取り主が都合の良い時間に自身で荷物を取りにくる仕組みも活用してください。
出荷・受け入れシステムの効率化
ドライバー不足による輸送力の低下防止のため、出荷・受け入れシステムを効率化しましょう。
たとえば、予約システムを導入すれば事前に配送計画を立てやすくなります。
可能な限り荷物を集約し、配送先を振り分けて効率的に配達できるようにすれば、従来の配送よりも短時間で業務を遂行できます。
ロボット導入
女性や高齢者雇用を促進するためにロボット導入を検討しましょう。荷物の手積みや荷卸ろしは、力の弱い女性や高齢者にはこなせない可能性があります。
ロボットの導入で、人力ではなく機械の力で作業できる体制を整えましょう。
自動運転技術の活用
近年自動車メーカーが盛んに取り入れている自動運転技術も活用しましょう。高齢ドライバーを雇用する場合、加齢が原因の認知低下による事故が懸念されます。
定期的な研修やチェックに加えて、自動運転技術も活用しましょう。自動運転を過信してはいけませんが、自動ブレーキなど、事故を防ぐ工夫がされています。
ドライバーおよび周辺住民の安全確保のため、自動運転技術が搭載されたトラックの導入も検討してください。
まとめ
運送業の2024年問題は、輸送力の低下に伴い事業者を含めた各方面へ大きな影響が懸念されます。
事業者側ができる取り組みとしてはまず、人材確保のための労働環境整備です。
賃金や休暇などの待遇改善、そしてより多くの人材を雇用するために、女性や高齢者雇用も促進しましょう。
ドライバーの業務時間を短縮し高齢者や女性ドライバーを増やすためには、ロボットの導入やシステムを使ったDXによる業務の効率化が必要です。
運送事業者も2024年に向けて、対策を始めましょう。
監修者情報
みのだ社会保険労務士事務所 代表 蓑田真吾(社会保険労務士)大学卒業後、鉄鋼関連の企業に総合職として就職し、その後医療機関人事労務部門に転職。約13年間人事労務部門で従業員約800名、新規採用者1,000名、退職者600名の労務、社会保険の相談対応にあたる。社労士資格取得後にみのだ社会保険労務士事務所を開設し、独立。東京都社会保険労務士会所属(登録番号 第13190545号)。
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