工事請負契約書とは?記載項目と作成の目的、テンプレートを紹介

最終更新日:2024年02月20日

工事請負契約書とは?記載項目と作成の目的、テンプレートを紹介
建物の新築や増改築、リフォーム工事など建設工事を受発注する際は、その請負金額に関わらず、工事請負契約書の作成が義務付けられています。災害時など緊急を要する場合を除き、着工前に作成して、双方が署名捺印のうえ契約を締結しなければなりません。

この記事では、工事請負契約書が必要になる場面や、作成時の注意点を解説します。工事請負契約書を作成する方は、ぜひテンプレート集を参考にしてください。
【目次】
  • 工事請負契約書とは
    • 工事請負契約の成立条件
    • 工事請負契約書が必要な場面
    • 工事請負契約に関して知っておくべきこと
  • 工事請負契約書の書き方
    • 工事請負契約書で記載しなければならない項目
    • 工事請負契約書を作成する際の注意点
    • 工事請負契約書のテンプレート集
  • 工事標準請負契約約款とは
  • まとめ
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工事請負契約書とは

工事請負契約書とは、工事や請負金額といった契約内容を書面化したもので、建設業法により着工前に締結することが義務付けられています。
本来口頭でも請負契約は成立しますが、書面にして契約内容を明確にすることで双方の齟齬を解消し、どちらか一方に有利な契約になることを防げます。つまり当事者間の紛争を防ぐことが目的です。

したがって、工事請負契約書に記載すべき事項はある程度定められており、さらに細かい内容を定めておくことも可能です。記載すべき内容については、別の章で詳しく紹介します。

工事請負契約書の作成は建設業者の義務であるため、通常は受注する側である請負人が作成します。ただし、法律的には当事者のどちらが作成しても問題ありません。

災害時など緊急を要する工事以外は建設工事に着手する前に作成し、署名捺印のうえ交付しなければなりません。また、工事によっては途中で変更や追加工事が生じることがありますが、その場合は遅滞なく変更契約書を作成するようにしましょう。

なお、実際の取引現場では建設業者と注文者間で「注文書」「請書」の形態で請負契約を締結していることが多く、当事者双方の署名捺印が必要になりますが、一定の要件を満たすことで工事請負契約書に代用できます。
工事請負契約書に代用する方法としては、たとえば両者間で基本契約書を締結したうえで、個々の契約については注文書・請書を交換する方法や、注文書と請書のそれぞれに基本契約約款を添付(印刷)する方法があります。
どちらの場合であっても、工事請負契約書に記載が義務付けられている項目を記載し、「注文書および請書に記載されている事項以外については、基本契約の定めによる」と明記する必要があります。

なお、一定の条件を満たす必要はありますが、2001年4月の建設業法の改正により電子契約での締結も可能になりました。

出典:発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第5版)|国土交通省

工事請負契約の成立条件

請負契約は、当事者である一方が工事を完成させることを約束し、もう一方が成果に対する報酬の支払いを約束することで成立します(民法第632条)。つまり、工事請負契約書の有無にかかわらず、双方の意思が合致することで請負契約の効力が発生します。
ただし、請負契約の当事者は、一定の事項を記載した契約書を作成のうえ署名(記名押印)することが義務付けられています(建設業法第19条)。

工事請負契約書が必要な場面

建設工事を請け負う場合は、その契約金額に関係なく、工事請負契約書を交付する必要があります。
たとえば、以下のような工事が建設工事に該当します。

  • 新築工事
  • 増改築・改装工事
  • 屋根工事
  • 防水工事
  • 電気工事
  • 塗装工事
  • 内装工事
  • 外構工事


軽微な工事のみを請け負う場合は、建設業の許可を必要としません。しかし建設業に登録しているか否かにかかわらず、建設工事を受注する場合は工事請負契約書を作成する必要があります。
ここでいう軽微な工事とは、以下のとおりです。

  • 請負金額が500万円未満の建設工事
  • 建築一式工事については1,500万円未満、もしくは延べ面積が150㎡未満の木造住宅の工事

工事請負契約書(2号文書)は印紙税法で定める課税文書であるため、契約締結時にはその請負金額に応じた収入印紙を貼る必要があります。ちなみに不動産売買契約書(1号文書)も課税文書にあたりますが、税額が異なるので注意が必要です。

なお、印紙税の軽減措置により、2024年3月31日までに作成される工事請負契約書で、請負金額が100万円を超えるものは印紙税が軽減されます。また、電子契約により工事請負契約を締結した場合は、印紙税は免除となります。

参考までに、500万円超1億円以下の通常の印紙税額と、軽減措置適用後の印紙税額は以下のとおりです。

  • 500万円超1,000万円以下 :10,000円(軽減措置適用:5,000円)
  • 1,000万円超5,000万円以下:20,000円(軽減措置適用:10,000円)
  • 5,000万円超1億円以下  :60,000円(軽減措置適用:30,000円)

印紙を貼付しなくても工事請負契約は成立します。しかし万が一印紙を貼り忘れると、本来納めるべき印紙税額と、その2倍に相当する過怠税(本来納める印紙税額の3倍に相当する額)が徴収されるため注意が必要です。

出典:No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置|国税庁

工事請負契約に関して知っておくべきこと

工事請負契約書を交付することで工事内容が明確になります。その上でトラブルが起きたときのルールをあらかじめ定めておくことで、不測の事態に陥った場合も比較的スムーズに解決できるでしょう。
そして万が一訴訟になった際には、工事請負契約書を証拠資料とすることができます。なるべく詳細に記載しておくことをおすすめします。

工事請負契約書の書き方や、記載することが望ましい項目については、この後に続く章で解説します。

工事請負契約において請負人の義務は仕事の完成であり、住宅の新築工事であれば契約で定めた仕様や性能の建物を完成させて、期日までに発注者に引き渡すことです。一方発注者の義務は、成果に対して報酬を支払うことです。

新築工事の場合、発注者が引渡しを受けるまでは、材料を提供した請負人に所有権は帰属します。つまり特段の特約がない場合、発注者は報酬を支払い、引渡しを受けてはじめて所有権を得ることになります。

ちなみに新築するにあたって設備や材料を発注者が提供した場合は、注文者に帰属します。

出典:建設工事標準請負契約約款について|国土交通省

工事請負契約書の書き方

建設業法により、工事請負契約書に記載すべき16の項目が定められています。この章ではそれらの項目について解説し、記載することが望ましい項目についても紹介します。

工事請負契約書で記載しなければならない項目

建設業法によって、工事請負契約書に記載が義務付けられている16の項目は以下のとおりです(建設業法第19条)。

  • 工事内容
  • 請負代金の額
  • 工事の着工日・完成の時期
  • 休工日・工事をする時間帯
  • 請負代金を前払いもしくは出来高払いする場合は、その支払い方法と時期
  • 工事内容や工期を変更する場合の損害の負担と損害金の算定方法
  • 天災など不可抗力による工期変更があった場合の損害の負担と損害金の算定方法
  • 物価の変動があった場合の請負代金の額と工事内容の変更に関する定め
  • 工事施工中に第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担に関する定め
  • 注文者が資材を提供もしくは建設機械などを貸与する場合は、その内容と方法
  • 注文者が竣工検査などをする場合はその時期と方法、および引渡しの時期
  • 工事完成後における請負代金の支払いの時期、支払い方法
  • 契約不適合責任に対する措置と契約不適合責任に対して講ずべき保証保険契約の締結の有無
  • 当事者が債務遅滞や不履行した場合の遅延利息・損害金の額
  • 契約に関する紛争の解決方法
  • その他国土交通省令で定める事項など

工事請負契約書に記載すべき基本的な項目

工事請負契約書には、まず建設工事に関する基本的な項目を記載します。たとえば使用する設備の品番やカラー、設置方法なども明確にしましょう。

事前に工事内容について細部まで打ち合わせていたとしても、発注者と請負人で行き違いが生じる可能性があり、些細なことからトラブルになりかねません。打ち合わせで決定した項目は、かならず工事請負契約書に記載するようにします。

実際の工事では、打ち合わせした担当者と工事担当者が異なることが多いため、工事請負契約書は第三者が見ても内容がわかるようにしておくことが重要です。また見積書だけでなく、約款、仕様書、図面なども添付するようにしましょう。

トラブルが生じたときの対処方法や損害の負担に関する項目

建設工事は、天災や人災などにより遅延するおそれがあります。工期は余裕をもってスケジュールを組むようにしたいものですが、遅延したときの違約金や損害金の算定方法をあらかじめ定めておくことで、トラブルを最小限にとどめることができます。

また、途中でやむを得ず工事内容を変更することや、発注者の希望により工事を変更することがあります。工事内容を変更することで当初の請負金額で工事できなくなるだけでなく、双方もしくは一方に損害が生じる可能性があるため、不測の事態に備えてルールを定めておきましょう。
そして契約内容に変更が生じた場合は、かならず変更契約書を交付し、お互いに署名捺印したうえで工事を進めるようにします。

その他記載が推奨される項目

建設業法に定められた必須項目以外に、工事請負契約書に記載することが推奨される項目は以下のとおりです。双方の合意があれば、先に紹介した16の項目以外についても定めることができます。

●ローン特約
発注者が住宅ローンの審査が通らず、資金が調達できなかったときに契約を解除できるといった特約です。消費者を保護するための特約ですが、解除できる期日を設ける必要があります。

●反社会勢力の排除に関する条項
反社会勢力排除することを目的とし、お互いに反社会勢力や暴力団等に属さないことを確認・保証する条項です。万が一相手側が該当する場合、契約解除や損害賠償を求めることができます。

●管轄裁判所について
建物が所在する場所の管轄裁判所を、第一審の裁判所として合意しておくことが一般的です。

工事請負契約書を作成する際の注意点

この章では、工事請負契約書を締結する際の注意点を3つ紹介します。

追加工事の代金について

建設工事は、やむを得ず変更や追加工事が必要になることがあります。民間建設工事標準請負契約約款(乙)の第20条2項によれば「請負代金額又は工期を変更するときは発注者と受注者が協議して決める」とあり、発注者の承諾がなければ請負代金を変更することができません。

発注者の承諾がなくても、正当な理由がある場合は追加工事の代金請求ができる旨を追記しておきましょう。

出典:民間建設工事標準請負契約約款(乙)|国土交通省

一括下請負の禁止について

建設業法第22条により、建設業者が発注者から請け負った建設工事を、一括して他者へ請け負わせることは禁止されています。しかし公共事業など不特定多数の人が利用するような重要な施設等でない場合、あらかじめ発注者の承諾を書面で得ておくことでこの規定の適用を免れます。

建設工事を下請け業者などに一括して請け負わせることがある場合は、その旨を工事請負契約書にただし書きを追記し、発注者の承諾を得ることを忘れないようにしましょう。

工期が遅延するケースについて

民間建設工事標準請負契約約款(乙)の第21条では「不可抗力や正当な理由があるときは、受注者は速やかにその旨を示すことで発注者に工期の延長を求めることができる」としています。
しかし一方で、同約款の第12条では「第三者とトラブルが生じた場合、受注者は処理解決しなければならない」としており、そのうえ「工期の延長はしない」とあります。

たとえば隣家と工事の騒音問題でトラブルになり、工事が中断した場合でも工期を延長できないおそれがあります。

したがって不可抗力や正当な理由として認められるケースを具体的に記載し、発注者の同意が得られない場合でも、工期を延期できるようにしておくとよいでしょう。

工事請負契約書のテンプレート集

工事標準請負契約約款とは

工事請負契約約款とは、工事請負契約書に定めた項目や特約だけでは網羅できない事項を詳細にわたり記載したものです。建設工事における当事者間の紛争を予防し、どちらか一方に過度に有利な契約にならないようにすることを目的としています。

一般的には、国土交通省が設置した、中央建設審議会作成による「建設工事標準請負契約約款」を使用し(建設業法第34条第2項)、工事請負契約書に添付して契約を締結します。

工事標準請負契約約款は4種類あり、発注者や工事の規模に応じて選択します。

●公共工事標準請負契約約款
国や地方公共団体などが発注者になる請負契約が対象

●民間建設工事標準請負契約約款(甲)
民間の比較的大規模な請負契約が対象

●民間建設工事標準請負契約約款(乙)
民間の個人宅など、比較的小規模な請負契約が対象

●建設工事標準下請契約約款
公共工事や民間の工事など、下請け工事全般が対象

出典:建設工事標準請負契約約款について|国土交通省

まとめ

工事請負契約書は、建設工事を受発注する際に交付が義務付けられている契約書です。請負金額や建設業の許可を受けているか否かにかかわらず、工事着工前に締結する必要があります。契約内容を明確にし、トラブルを最小限に抑えるようにしましょう。

執筆者情報

桜木 理恵(宅地建物取引士)
大学在学中に宅地建物取引士に合格。新卒で大手不動産会社に入社し、売買仲介営業担当として約8年勤務。結婚・出産を機に大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し約5年勤務。その他信託銀行にて不動産事務として勤務経験あり。現在は不動産の知識と経験を活かし、フリーランスのWebライターとして活動。不動産や建築にまつわる記事を多数執筆。
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