電子帳簿保存法とは-2022年の改正でどう変わった?

公開日:2022年03月09日 更新日:2022年12月13日

電子帳簿保存法とは-2022年の改正でどう変わった?
会計帳簿や取引伝票等の電子保存についてのルールを定めた「電子帳簿保存法」。社会情勢の変化や利便性の向上に対応するために、何度も改正を重ね続ける法律ですが、このたび、デジタル化やテレワークの推進、電子化による生産性向上、適正な課税の実現などの観点から抜本的な見直しがされ、2022年(令和4年)1月1日から改正電子帳簿保存法が施行されました。

これまでは、「帳簿・伝票(取引関係書類)類を紙ではなくデジタルデータとして保存したい」という企業にしか関係がなかったこの法律ですが、今回の改正で多くの企業が対象となります。というのは、電子データ(PDFなど)で授受した請求書、領収書などの伝票類について「電子保存の義務化」が定められたからです。義務化については、実質2023年12月末まで猶予期間が設けられましたが、その時になって慌てないよう内容を把握し、準備しておきましょう。

「電子帳簿保存法」とは

企業活動には必ず必要な、帳簿や取引伝票。総勘定元帳や仕訳帳、各種元帳などの会計帳簿や貸借対照表や損益計算書といった決算書類、それに請求書や領収書、注文書といった取引伝票までいろいろありますが、これらには7年間の保存期間が定められています。
紙で保存するとなると場所を取りますし、税務調査や会計監査などで提示を求められた場合など、該当のものを探すのにも時間がかかります。
一方、帳簿や書類をデジタルデータとして保存できれば、スペースを確保する必要がなく、検索もしやすくなります。

かねてより、これらを電子データとして保存することは認められていました。ただし、事前の承認申請手続きや、改ざん防止等、適正な管理・運用のために様々な要件を満たす必要がありました。その、電子保存に関するルールを定めた法律が「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」つまり「電子帳簿保存法」です。

とはいえ、タイムスタンプの付与や厳格な運用・管理規定、税務署への手続き等、コストや手間を伴うものであったため、ハードルが高く、多くの企業にとってあまり身近ではなかったかもしれません。
ところが、2022年1月の法改正で「電子データで授受した請求書などの取引書類は電子保存しなければならない」ことになっため、無関係ではいられなくなりました。たとえば、今ではネットでモノを購入するのは当たり前になりましたが、その際に発行される請求書や領収書は、紙ではなくネット上で表示、またはダウンロードしたり、メールで受領するケースも多いと思います。こういった「紙」によらない取引書類は、電子保存義務の対象となります。
また、クラウドサービスの普及、そしてコロナ禍でのリモートワークへのシフトが後押しとなり、請求書をPDFで発行する企業が増えましたが、これも同様です。

電子帳簿保存法の3つの区分

さて、その「電子帳簿保存法」ですが、電子データの保存については次の3つに区分されています。
区分(1)「電子帳簿等保存」
…自己で作成した帳簿や決算関係書類を電子データのまま保存する
区分(2)「スキャナ保存」
…取引相手から紙で受領した請求書や領収書等取引書類、自己が作成した書類の控をスキャンし画像データで保存する
区分(3)「電子取引に係るデータ保存」
…取引相手と電子データで授受した請求書や領収書などの取引書類を電子データで保存する

今回の改正により、区分(3)の電子取引データの電子保存が義務化(2年間の猶予期間あり)される一方で、税務署長への事前承認制度が廃止されたり、スキャナ保存制度の要件が大幅に緩和されるなど、より対応がしやすくなりました。
では、それぞれの「区分」について、どのような要件が定められているのでしょうか。

区分1:電子帳簿保存

経費や仕入、売上、報酬等の収支管理を会計ソフトなどを使って一貫してデジタルでおこなっている場合、仕訳帳、総勘定元帳、売上帳などの帳簿や決算書類は紙ではなく、電子データのまま保存すればよいとしています。
その場合の要件は、

・パソコン等コンピュータですぐに該当データを表示し、出力できる環境を整備しておくこと(パソコン等ディスプレイの付いたコンピュータ、ソフトウェア、プリンタ等の整備)
・誰でも対応できるように、PCやソフト、プリンタなどの操作説明書やマニュアルを備えること
・データは数字・テキストの羅列などではなく、見て内容が明確にわかる状態で表示できること
・税務署の要請があれば、記録・管理しているデータをダウンロード(提示)できるようにすること

最低限求められる要件は、以上です。

なお、「優良な電子帳簿」として認められると、過少申告加算税の軽減措置が適用されます。具体的には、万が一税務調査で不備が発覚して追徴課税が生じた場合、過少申告加算税が5%減免される、という措置ですが、その適用を受けるためには上記に加えてさらなる要件が定められています。また、所轄の税務署への届け出も必要です。

その要件とは、次のとおりです。
・記録事項の訂正・削除をおこなった場合、その事実や内容が確認できるシステムを使用すること
・通常の業務処理期間以降に入力をおこなった場合、その事実や内容が確認できるシステムを使用すること
・ある帳簿の記録事項と、それに関連する他の帳簿の記録事項において、関連性を相互に確認できるようにしておくこと
(たとえば、仕訳帳に記載された経費Aと、総勘定元帳に記載された経費Aを相互に確認できるようにするなど)
・「取引年月日」「取引金額」「取引先」の項目で検索ができること
 ※日付または金額の範囲指定により検索できること
 ※上記について2つ以上の項目を組み合わせた条件で検索できること

区分2:スキャナ保存

取引先から受け取る請求書や領収書などの伝票類は、紙に印刷して郵送される場合もあれば、PDFファイルをメールに添付して送られる場合もあったりと、紙とデジタルデータが混在しているケースも少なくないのではないかと思います。
ですが、一部はデジタルで保存されていて、一部はファイルに綴じられてキャビネットに保管されている…となると、とても扱いづらいですよね。誰もが「一元管理したい」と考えると思いますが、ここで登場するのが「スキャナ保存」です。
紙で受け取った伝票は原本を保存する、というのが原則ですが、原本をスキャナやデジタルカメラでデジタルデータ化し、さらにそのデータを適正に管理することを条件に、電子保存が認められています。

これについて、以前は非常に厳格な管理が求められており、「タイムスタンプの付与」もそのひとつでした。タイムスタンプというのは、デジタル書類に対して、日付・時刻を刻印することで「刻印時には書類は存在し、その後改ざんされていない」ことを証明するためのものですが、これが必須要件ではなくなりました。もちろん、書類の真実性を担保するための仕組みは必要ですが、その手段についての選択肢が増えたのです。
その他にも様々な要件が緩和され、企業側も対応しやすくなったわけですが、改正後の電帳法ではどのような要件が定められているのでしょうか。

・タイムスタンプの付与(業務サイクルに基づく入力期間:最長2ヶ月+概ね7営業日以内)
 または、データの訂正・削除がおこなえないシステムやクラウドサービス、あるいは、
 データの訂正・削除をおこなった場合、その事実や内容を確認できるシステムやクラウドサービスを利用すること
・「取引年月日」「取引金額」「取引先」の項目で検索ができること
・税務署の要請があれば、記録・管理しているデータをダウンロード(提示)できるようにすること


なお、これまで必要だった税務署への事前申請も不要になりましたが、2022年1月1日の施行日より前に承認を受けている場合、改正後の要件で運用するためには承認取りやめの届出書を提出する必要があるので注意しましょう。

区分3:電子取引に係るデータ保存

さて、多くの企業にとって避けて通れないのがこの区分です。
希望するしないにかかわらず、請求書や領収書などをPDFなどのデジタルデータで受け取るケースは今後増えていくと思われます。
これまでは、これらを紙に出力して保存することが可能でしたが、「デジタルデータはデジタルの状態で保存しなければならない」ことになります。
そして、電子保存の要件は次のとおりです。

・パソコン等コンピュータですぐに該当データを表示し、出力できる環境を整備しておくこと(パソコン等ディスプレイの付いたコンピュータ、ソフトウェア、プリンタ等の整備)
・誰でも対応できるように、PCやソフト、プリンタなどの操作説明書やマニュアルを備えること
・データは数字・テキストの羅列などではなく、見て内容が明確にわかる状態で表示できること
・「取引年月日」「取引金額」「取引先」の項目で検索ができること
 ※日付または金額の範囲指定により検索できること
 ※上記について2つ以上の項目を組み合わせた条件で検索できること
・税務署の要請があれば、記録・管理しているデータをダウンロードできるようにすること

ここまでは、区分(1)と共通していますね。これらは「可視性の要件」です。
なお、検索要件については、定められた基準期間*の売上高が1,000万円以下の小規模事業者が、国税庁からの電磁的記録ダウンロードによる提出要求に対応できる場合は、検索要件のすべてが不要となります。
*基準期間…個人事業主:電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日まで/法人:電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度


次に、「真実性の要件」については次のいずれかの対応をとるよう定められています。
・タイムスタンプが付与されたデータを受領
または
・受領後速やかにタイムスタンプを付与 ※タイムスタンプ付与に関する規程が必要
または
・ データの訂正削除をおこなった場合にその記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムやクラウドサービスを利用
または
・訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付け

最後の、事務処理規程を作成して運用する方法は、新たなシステムやサービスを導入することなく対応できるものです。

区分3「電子取引に係るデータ保存」への対応については、関連記事「電子帳簿保存法改正 PDFの請求書、領収書はどう管理すればいい?」にてテンプレートの紹介も含め解説していますので、合わせてご参照ください。

電子帳簿保存法改正後の注意点

デジタル化の流れを受けて、企業が対応しやすいようこれまでよりも大きく要件が緩和された電子帳簿保存法ですが、スキャナ保存データと電子取引データに関して「不正」があった場合、重加算税の加重措置が課せられるといった注意点もあります。
万が一、スキャナ保存した電子データを意図的に改ざんや削除した場合、従来の追徴税額35%の重加算税に加え、10%加重されます。
また、今回の改正要件に則していないデータであった場合、国税関係書類等としてみなされません。
つまり、改正により自由度の高いシステム構築を許容するのと引き換えに、不正があった場合はペナルティを課しますよ、というわけです。
経営者と従業員間の信頼関係の構築はもちろんですが、改正によるペナルティの重さを共有・理解し、防止対策を講じることが大切です。

業務効率化を見据えて

今後、様々な業務、そして書類のデジタル化はどんどん加速していくと思われます。とはいえ、業務フローを変える、管理体制を新たに整えるというのは一定の労力、場合によってはコストがかかります。ですが一方で、デジタル化を進めれば、紙を印刷して、承認印をもらって、郵送して、ファイリングして、探すのに苦労して…などといった一連の手間が軽減されるのも事実です。
電子帳簿保存法への対応は、これからの「業務効率化」を見据えて準備をされるとよいのではないでしょうか。

■参考サイト
電子帳簿保存法が改正されました(令和3年12月改訂)|国税庁(PDF)
電子帳簿保存法上の電子データの保存要件|国税庁
電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】|国税庁



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印刷された紙ではなく、PDFなど電子データとしてやり取りされるようになった取引関係書類などを、2022年1月に改正された電子帳簿保存法に則り電子保存・管理するための索引簿や事務処理規程、また、規程に基づき使用する申請書、報告書等のテンプレートです。

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