企業内でコロナ感染者が発生したら?対応方法や賃金・手当について

最終更新日:2021年07月09日

企業内でコロナ感染者が発生したら?対応方法や賃金・手当について
新型コロナウイルス感染症の流行は、ワクチン接種が徐々に進んでいるとはいえ現役世代にはまだ行き渡っておらず、感染力の高い変異型ウイルスの流入もあり予断を許さない状態です。
複数回に渡る緊急事態宣言により、テレワーク化の徹底や病気休暇手当などの体制が整う大企業がある一方で、コロナ対応への整備が不十分な企業も少なくありません。また、感染者の多い地域はともかく、そうでない地域では、社内でコロナ感染者や感染疑い者、濃厚接触者が場合の対応手順について定められていない、という企業もあるのではないでしょうか。
そこで今回は、基本的な対応フローをはじめ、賃金や傷病手当金、雇用調整助成金などについて解説します。
もしもの場合にスムーズな対応ができるよう、事前にガイドラインを作成し、従業員に周知徹底しておきましょう。
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コロナ感染疑い時にとるべき企業の対応

厚生労働省では、従業員が体調不良を訴えた場合、できるだけ自宅待機を促すよう推奨しています。また、保健所や医師により濃厚接触者とされた場合は、症状の有無にかかわらず自宅待機や健康観察が求められます。そのような場合、在宅勤務への切り替えや、休みが取りやすいように環境を整えておくことが重要です。
また、在宅勤務ができればよいのですが、業務内容によってはそうもいかないケースもあります。いつなんどきそのような事態が発生しても業務が継続できるよう、手順書の作成や代行人員の調達方法など、体制を整えておきましょう。

体調不良時は自宅待機が基本

従業員自身が体調不良の場合はもちろん、コロナ感染が疑われる家族がいると申し出があった場合は、自宅待機するよう伝えます。
また、出社後、従業員に咳や発熱、強いだるさなど体調不良の兆候がみられたら、マスクを着用させた上で帰宅するよう指示してください。
その際注意したいのは、コロナ感染疑いがあるからといって、個人の尊厳を傷つけるような発言や対応がないよう注意しましょう。

症状が緩和しない場合は、地域の医療機関や自治体の相談センター、保健所などに早めに相談するよう事前に案内してください。

症状改善後の職場復帰の目安

コロナの感染が疑われる場合、PCR検査により陽性/陰性の判定が受けられればよいのですが、感染者が激増するなどしてなかなか検査が受けられないケースもあります。やむを得ず自宅待機で様子をみるうちに症状が改善した、という場合、どのように復帰の判断をすればよいでしょうか。

●症状改善後の職場復帰の目安
1.発症後、少なくとも8日以上経過していること
2.薬を服用していない状態で咳や発熱、だるさなどの症状がなく、少なくとも3日経過していること


以上が職場復帰の目安となります。
※「陰性証明」や「復帰診断書」提出の強要は避けるようにしてください。

息苦しさや強いだるさ、高熱などの症状が緩和しない場合は、なるべく早く、自治体が設けている相談窓口や医療機関などに相談・受診するよう促してください。

濃厚接触者となった場合

保健所による調査で濃厚接触者と判断されると、PCR検査受診および保健所による14日間の自宅待機および健康観察期間が設けられます。この場合は、保健所や医師の指示に従ってください。
保健所は、単に同じ職場にいただけで濃厚接触者と判断することはありません。しかし、感染者との接触が疑われる従業員に対しては、濃厚接触者同様に感染拡大リスクがないと判断されるまでは、極力出社を控えることが望ましいです。
企業側は感染症法、労働基準法、労働安全衛生法、就業規則などに基づいて、自宅待機もしくは在宅勤務を命ずることができます。

また、自宅待機となった濃厚接触者には、日々の体調確認と記録を促し、担当者は定期的に確認するようにしましょう。

コロナ感染が判明した際にとるべき企業の対応

従業員がコロナに感染したことが判明したら、企業は関係各所へ報告するとともに、速やかに事務所内の清掃や消毒をおこなう必要があります。

接触者の調査

保健所や自治体から職場に対し、濃厚接触者の把握や感染拡大防止のため、調査(積極的疫学調査)がおこなわれる場合があります。その際、スムーズに対応できるよう、職場内でヒアリングをおこない次の点をリストアップしておきましょう。

・発症日
・勤務した場所
・感染者の業務内容やフロア図・座席
・接触者(発症の2日前から)
・関連取引業者

必要に応じて、産業医や自治体、ビル管理会社、取引先などの関係先に連絡を入れておきましょう。社内外への連絡・共有は別途項目で解説します。

また、保健所から感染事業所やエリアの一時閉鎖の指導を受ける場合がありますが、指導がなくとも、自主的な判断による一時閉鎖も視野に入れておくとよいでしょう。

保健所の指導による清掃・消毒

保健所は、感染者本人から職場内での接触状況などを聞き取ります。状況により、企業には「職場の調査」や「消毒命令」が出ます。

社内での接触感染を防ぐために、感染者が触った可能性がある箇所を重点的に清掃・消毒してください。
保健所の指示に従って、パソコンなどを含むデスク回り、ドアノブ、トイレ、ロッカー、エレベータースイッチ、階段の手すりなどを消毒します。

社内での自主的検査

保健所の調査で濃厚接触者に認定された従業員以外についても、自主的にPCR検査や抗原検査、抗体検査を実施したほうがよいと考える企業もあるかと思います。

自主的に検査を受ける場合は、全額自己負担となります。医療機関でおこなう検査料金にはばらつきがありますが、PCR検査はおおよそ3万円程度、抗原検査・抗体検査は7千円~1万円程度のようです。
検査機関によっては、検査のみで医師の診断を伴わない安価な検査キットもあります。

企業で実施する際は、まずは産業医などの専門家に相談し、従業員に無理強いすることは避けてください。
なお、PCR検査や抗原検査、抗体検査では、偽陽性や見逃しの可能性が課題となっており、コロナ感染の有無を確証するものではない、ということは認識しておきましょう。

連絡・共有について

従業員がコロナ感染者と判明したら、社内、また、感染拡大防止の観点から必要があると判断される取引先などに対して情報の連絡・共有を実施します。
名前は公表せず、感染者への対応・感染場所・人数・経緯・濃厚接触者の有無・消毒作業の内容など、基本的な項目を開示します。
また、「誰が、誰に連絡するのか」フロー図を作成するとともに、感染者発生時に通達する文書を作成しておけば、とまどうことなく対応できます。

なお、社内外に通知する場合は、感染者への偏見や差別が起きないよう人権に配慮するとともに、個人情報保護への配慮も重要です。
新型コロナウイルス感染症に伴う個人情報の取り扱いは、個人情報保護委員会のページを参考にしてください。

感染や感染疑い時における休業中の賃金と手当

コロナ感染が判明した従業員が休業する場合と、感染疑いがある従業員が休業する場合とでは、賃金・手当の対応が異なります。

コロナ感染により休業する場合の賃金と傷病手当金

従業員が新型コロナウイルスに感染したことが判明した場合は、都道府県知事からの就業制限による休業となるため、企業に賃金の支払い義務はありません。
なお、被用者保険(健康保険、共済組合など)に加入している従業員は、条件を満たしていれば「傷病手当金」が支給されます。支給金額の計算方法は保険者により異なりますが、労務に服することができなくなった日から3日間の待機期間を経て、4日目から休業した期間分(支給開始日から起算して1年6ヶ月を超えない期間)が支給されます。

従業員が自主的に休む場合の賃金と休暇制度

発熱やだるさなど、コロナ感染が疑われる症状がある場合に仕事を休むのは、通常どおり、病気休暇、有休休暇、病気欠勤の扱いでよいでしょう。問題は「通常時なら仕事を休むほどではない軽微な症状」あるいは「症状はないが感染者と接触があり感染のリスクがある」ケースです。在宅勤務が可能なら休む必要はありませんが、体制が整っていなかったり、そもそも在宅ではできない業務もあります。そのような状況下で従業員が自主的に判断して休みを取ったのであれば、それが有給休暇でない場合には賃金の支払い義務は発生しません。
ただ、出社を無理強いしたり、有給休暇の取得を理由に賃金の減額や不利益な取り扱いをしないよう注意してください。また、企業から有給休暇を一方的に取得させることはできないので気をつけましょう。

企業側が自宅待機させた場合の賃金と休業手当

では、企業側の判断により、従業員を休ませる場合はどうでしょうか。
労働基準法第26条に基づき、労働者に不利益が生じないように休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う義務があります。

【労働基準法第26条より抜粋】
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、正規・非正規を問わず、休業させたすべての労働者に対して、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならない

休業手当は雇用調整助成金の対象となり得る

企業判断により休業させて休業手当を支払った場合、その一部を助成する「雇用調整助成金」の対象となり得ます。
現在、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例が設けられており、支給対象となる事業主は、以下の条件を満たす必要があります。

【厚生労働省HP|雇用調整助成金より抜粋】
1.新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
2.最近1か月間の売上高または生産量などが前年同月比5%以上減少している(※)
  ※比較対象とする月についても、柔軟な取り扱いとする特例措置があります。
3.労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている


助成額は、企業規模や緊急事態宣言など地域特例などにより異なりますが、15,000円もしくは13,500円を上限としています。

なお、特例措置は2021年7月31日までとされていましたが、東京都への緊急事態宣言再発令、埼玉県、千葉県、神奈川県および大阪府におけるまん延防止等重点措置の延長に伴い、9月末まで延長される予定です。
条件や申請手続きなどの詳細は、厚生労働省HP内の雇用調整助成金のページでご確認ください。

まとめ

コロナ感染拡大により、企業内でいつ感染者が発生してもおかしくない状況です。コロナ感染疑いや感染者発生時に迅速な対応ができるよう、様々な局面を想定したガイドラインを作成しておくことをおすすめします。

なお、感染防止対策として新型コロナウイルスワクチンの接種も進んでいますが、接種を強要したり、接種しない人を差別したり不当に扱う風潮も懸念されています。アレルギーや持病などにより、ワクチン接種にリスクや不安を抱える人もいます。
企業として、このような「ワクチンハラスメント」を防止する姿勢を示し、従業員に周知徹底をおこなうこともまた、重要な課題です。

■参考サイト
新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省
オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(PDF)|一般社団法人 日本経済団体連合会
新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて|個人情報保護委員会
雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)|厚生労働省



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