パンデミックに備える!企業の感染症対策とBCP

2020年03月13日

パンデミックに備える!企業の感染症対策と事業継続計画
現在、猛威をふるっている新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的にも大きな脅威となっています。ウイルスが発生した中国のみならず、日本や世界の様々な国や地域でも死亡者が出ており、いよいよ市中感染が現実化してきました。日本でも小中学校の休校要請をはじめ、事業活動に影響が出始めた企業への雇用助成金や、子供の学校休校によって休暇取得を余儀なくされた従業員に対する賃金補償など、政府の支援策も次々と打ち出されています。

日本はもともと、地形や気候の特徴のために地震や津波などの自然災害リスクが高く、防災対策に取り組んできた企業も多くありますが、感染症対策については、どうやって手を付けたらいいのか戸惑う担当者も多いのではないでしょうか。

今回は企業における、事業継続計画も含めた感染症対策について、リスクや必要性、対策などのポイントを考えていきましょう。

企業における感染症対策の必要性

感染症対策は、各個人がおこなうことが大切ということはもちろんですが、企業においても次のような理由から非常に重要であるといえます。

労働者の安全に配慮する法的義務

労働契約における基本事項を定めた「労働契約法」では、企業に従業員の健康や安全の確保と配慮をおこなう義務がある、としています。感染症に関していえば、従業員が業務中に感染症にかからないようにする、罹患した場合は重篤化させない、といったことが求められます。

事業者としての危機管理

では、実際に日本で何らかのパンデミックが起こるとどうなるのでしょうか?参考までに、2009年に発生した新型インフルエンザを例に挙げてみましょう。

厚生労働省の『事業者・職場における新型インフルエンザ対策 ガイドライン』によると、新型インフルエンザによるパンデミックが発生した場合には、以下のような影響があると想定しています。

・全人口の約25%が発症
・医療機関を受診する患者数は1300万人~2500万人
・入院患者は53万人~200万人
・死亡者は17万人~64万人
・従業員本人や家族の発症等により従業員の最大40%程度が欠勤
・欠勤期間は1週間~10日程度
・流行期間は8週間

仮にこの予想が現実化した場合、従業員の4割もが欠勤してしまうと、事業継続が危うくなることが容易に考えられます。

また、このガイドラインでは、一般的な社会への影響として次のようにも挙げています。

・膨大な数の患者と死者
・社会不安による治安の悪化やパニック
・医療従事者の感染による医療サービスの低下
・食料品・生活必需品等、公共サービス(交通・通信・電気・食料・水道など) の提供に従事する人の感染による物資の不足やサービスの停止
・行政サービスの水準低下(行政手続きの遅延等)
・日常生活の制限
・事業活動の制限や事業者の倒産
・莫大な経済的損失

つまり、仮に自社の従業員だけは感染症に罹患しなかったとしても、一般的な社会機構を継続することが不可能となり、いずれは事業継続ができなくなることが想定されています。

企業の社会的責任

企業が被災等によって、事業継続ができなくなるとどのような影響があると考えられるでしょうか。
たとえば、生活インフラなどの公共性の高い事業、生活必需品を供給する事業などの活動が停止すれば、市民生活そのものが成り立たなくなってしまいます。また、近年効率化を目的に分業化・外注化を進めてきた企業では、原料の供給、組み立て、輸送、販売など、いずれかが停止しただけで、事業継続が困難となってしまいます。

●連鎖する経済への影響
新型コロナウイルスによって経済活動が停止してしまった中国でいうと、実質GDPが低下し、経済への悪影響が表面化しつつあります。また近年、製造業のみならず、インバウンドや輸出による中国経済への依存度を高めてきた日本経済への影響も色濃く出ている状況です。

●社員の行動教育も企業の責任
もしも自社の従業員が感染症に罹患し、通勤で公共交通機関を利用するなどして感染を広げてしまうことになれば、その企業は社会的責任を大きく問われることになり、イメージ低下の可能性が考えられます。そこで、企業が心がけなければならないのは、日頃から従業員に対して感染症予防のための教育をおこなうことです。また、「万が一発熱が続く場合には会社に報告の上出社しない」などの行動ルールの策定・周知も必要になります。

●高まるBCPの必要性
企業の被災は、その企業だけにとどまらず、社会や他社にも広く影響を及ぼしてしまうことが想定されます。そのため、企業にはどのような事態が起こったとしても、事業の継続もしくは早急な復旧が求められているのです。こうしたことを踏まえ、企業にはBCP(事業継続計画)策定の必要性が高まっています。

また、有価証券報告書にBCPやコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)などの取り組みを情報開示する企業も増えてきており、今後もこうした流れは加速すると考えられています。

パンデミックを想定したBCP策定ポイント

企業がパンデミックを想定したBCPを策定する上で、ポイントとなる点を説明します。

どう違う?防災対策とBCP

BCPは「Business Continuity Plan」、すなわち事業継続計画のことです。内閣府が発行している事業継続ガイドラインによると、自然災害や感染症、テロ、大事故、サプライチェーンの途絶などが発生したとしても事業を中断させず、仮に中断したとしても早急に復旧させるための方法や手順等を計画したものを意味します。

日本では、大地震などの自然災害の経験から、防災対策についてはすでに策定している企業も多くあります。防災対策では、主に人命や資産の被害を最小限にとどめることに重点が置かれていますが、BCPでは従来の防災の考え方に加えて、事業存続という考え方を追加して取り組みを考えることとなります。

全社的体制の構築

BCP策定にあたっては、経営、財務、調達、人事、法務、労務、広報、営業、製造、情報システム、産業医など、あらゆる関係者の参加が不可欠です。できれば、全社横断的組織を立ち上げ、経営層がリーダーに入るか、BCP委員会などの上位組織を設けて全社的エンドースを受けられる体制が望ましいとされています。

インパクト・リスク分析

まずはじめに、企業もしくは組織にとって重要な事業や業務、リソースを特定し、影響を分析します。この時、事業や業務の内容や従業員の安全性の面などから、継続の範囲や優先順位を決定します。たとえば、業務や施設の範囲、対象となる人の範囲などです。
次に、依存関係のある業務、取引先、フローなどの確認や、復旧に際してボトルネックになりうる可能性を検討し、復旧手順や復旧目標時間などを決めていきます。

●感染者が出た場合の事業継続はケース・バイ・ケース
事業の種類によっては、感染者が出た場合に、事業を継続しないで休業することが求められる場合もあります。たとえば、飲食店や託児所、高齢者のデイサービスセンターなどでは、一時的に業務を中止するケースが考えられます。反対に、電気やガス、水道、通信、公共交通機関など、社会的影響が広い事業をおこなっている場合には、事業継続が期待されます。

●体制の検討
なんとしても事業継続が求められる場合には、たとえ感染者が出たとしても感染拡大を防止しつつ業務がおこなえるよう、2チーム制で運用するなどの工夫が必要になります。また、感染症発生時に重大な意思決定をしなければならない局面で、経営者が罹患した場合の代替体制、分散した事業所の体制、感染症の情報収集体制、社員への情報提供や罹患した社員とのコミュニケーション体制なども検討しておきます。

●働き方の検討
体制と合わせて、働き方の検討もしておきます。たとえば、パンデミックが起こった場合には、公共の交通機関による輸送人数が極端に減る、交通麻痺が起こるといった事態が考えられます。その場合の出社方法についても配慮しなければなりません。小さなチームで交代勤務にする、テレワークに切り替える、人混みを避けるため時差通勤する、などの方法も検討しておきましょう。

●法的な観点でのチェック
BCPが発動された場合の行動や手順に、法的な問題が起こっていないかのチェックも必要です。
たとえば、感染症が疑わしい社員に自宅待機を命じる場合、その間の賃金支払いはどうなるのか、業務時間外の感染症対策や罹患時の報告、予防接種などを命令することができるのか、感染症が流行している国や地域への海外出張を命じることができるのかなど、労働法規や個人情報などの面で検討する必要があります。また、法令によって事故報告が義務付けられている場合もあるため、遵守すべき法令は何があるのかを把握し、それを違反していないかどうか確認しておきます。必要に応じて就業規則の変更やBCPの見直し等をおこなうとよいでしょう。

BCP発動基準の検討

発生する事象ごとに、組織としての対応内容や目標復旧時間などが異なってきます。そこで、レベルごとに発動基準を設けておくとよいでしょう。災害の種類にもよりますが、次のような例が考えられます。

【感染症】
・国内の各都道府県において感染者が〇名以上出た
・海外事業所のある国で感染者が〇名以上出た
【自然災害】
・震度6以上の地震
・事業所で火災発生
・大型台風の接近により事業所所在地に警戒レベル4の避難勧告が出た
など。

BCPを発動するのかしないのか、曖昧な状況では従業員は動けませんので、なるべく明確な基準を決めておくとよいでしょう。

BCP導入と教育・訓練

BCP発動が必要となった時、決められた手順や行動が確実におこなわれることが必要です。そのためには、平常時からの教育やテスト、訓練は必須となります。

●正しい知識の教育や訓練
感染症そのものへの知識やエチケット、予防方法などの基本的公衆衛生の知識を教育すること、感染した場合にはどのような行動を取るべきかの周知は必須です。
また、BCP発動時の訓練を実施し、結果に応じて内容を改定していくことも必要です。テスト計画や改定フローも決めておきましょう。

●平常時からの備えを
いざ感染症がアウトブレイクすると、衛生用品は手に入りにくくなることも考えられます。職場での感染症を防止するために必要な、マスク、消毒用アルコール剤、便座消毒用クリーナーなどを備蓄しておくとよいでしょう。また、季節性インフルエンザなどの感染症対策には、ワクチン接種を呼び掛ける、企業が費用を援助する、などの対策も有効です。

まとめ

企業にとっての感染症対策とは、あらゆるインシデントを乗り越えていかにサバイブ(Survive)するかを検討しておくことといっても過言ではありません。事業を脅かすリスクは多様化し、すべてを完全に網羅しておくことできませんが、今考えうるリスクからBCPを策定し、改定も含めた運用を始めることは重要です。そして、策定したBCPは、寝かせておいても意味がありません。教育、訓練、改定のサイクルをしっかりとまわしていきましょう。

■参考サイト
厚生労働省「事業者・職場における新型インフルエンザ対策 ガイドライン」
厚生労働省「社会福祉施設・事業所における新型インフルエンザ等発生時の業務継続ガイドライン」
内閣府防災担当「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」
経済産業省「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会 報告書 参考資料 事業継続計画策定ガイドライン」


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