運送業の働き方改革をふまえた労働契約の注意点【テンプレート付】

最終更新日:2024年03月27日

運送業の働き方改革をふまえた労働契約の注意点

運送業界における「ドライバーの長時間労働」の問題は、時には交通事故等の痛ましい事故を引き起こすなど、ニュースでも強く印象に残るものでありました。そして、2024年4月からの「時間外労働(残業)の上限規制」開始に伴い、社会問題として課題が一層浮き彫りになっているようにも思われます。

当コラムでは、「時間外労働(残業)の上限規制」をふまえた労働契約の注意点を中心に、運送業の自動車運転業務に従事するドライバーの働き方改革について解説します。
【目次】
  • 2024年4月スタートの「時間外労働(残業)の上限規制」について
    • 時間外労働(残業)上限規制内容の確認
    • 違反した場合の「罰則」について
  • 自動車運転業務(ドライバー業務)の特殊性について
    • 自動車運転業務(ドライバー業務)の労働時間の概念
    • 2024年4月以降はどうなるか?
  • 労働契約上の変更点に関する注意
    • 労働契約書・雇用契約書は締結する必要があるか?
    • 法改正にともなう、「労働条件の明示」の変更点は?
  • まとめ
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2024年4月スタートの「時間外労働(残業)の上限規制」について

この「時間外労働(残業)の上限規制」は、働き方改革関連法の一つとして、2019年4月から順次施行されている「改正労働基準法」に基づいてすでに開始されているものです。ただし、運送業においては、自動車運転者(ドライバー)の長時間労働という業界が抱える構造的な問題があり影響が大きく、規制を守って業務を管理・遂行していくことが非常に困難な業種であるため、猶予期間が設けられていました。
しかし、2024年4月からは運送業界でも義務化される以上、必ず対応していかなければなりません。これにより、法律に違反した場合の「罰則」も発生します。
しっかりと対応していくためにも、まずは「時間外労働(残業)上限規制」の内容から確認していきましょう。

時間外労働(残業)上限規制内容の確認

まずは、時間外労働(残業)に関する基本的なルールの確認ですが、時間外労働(残業)をするためには条件があります。条件をクリアするためには、「36協定」という労使間協定を結び労働基準監督署へ届出をする必要があります。この「36協定」にて、日・月・年単位の時間外労働(残業)の上限等を事前に定めていきます。
ただし、「36協定」を締結したからといって無制限に残業が可能となるわけではなく、法律により上限が設けられています。その上限とは、原則「月45時間・年間360時間」(臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合は特別条項にて別途上限設定あり)というものですが、これまで運送業については適用除外とされていました。
ところが、その規制が2024年4月からはドライバーにも適用されるため、ルールをしっかりと守っていかなければなりません。

違反した場合の「罰則」について

時間外労働(残業)の上限規制のルールを守らなかった場合、どのような「罰則」が科されるのでしょうか。
具体的な罰則内容は、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」とされています。

自動車運転業務(ドライバー業務)の特殊性について

上記で説明した「時間外労働の上限規制」を含め、業務の特殊性から、労働時間等の労働条件に関する法的規制の一部適用が除外されてきたのが「運送業の自動車運転業務(ドライバー業務)」です。
その代わりに「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」という独自のルールによって、労働時間等に対する規制が設けられています。

自動車運転業務(ドライバー業務)の労働時間の概念

まず、自動車運転業務(ドライバー業務)においては、その業務の特殊性から「労働時間」という概念は馴染まないので、労働時間の考え方を区別するため以下のような用語が用いられています。

●運転時間自動車の運転をしている時間
●拘束時間「運転時間」や荷下ろし等の「作業時間」に、
仮眠などの「休憩時間」を含む拘束されている時間の合算

そして、上記の「運転時間」や「拘束時間」に関する上限の規制や、独自の休息時間(勤務間のインターバル)等に対する基準が設けられており、違反した場合は労働基準監督署等からの立入検査が入り指導や処分を受けることになります。

2024年4月以降はどうなるか?

2024年4月以降は、運送業の自動車運転者(ドライバー)に対しても、時間外労働の上限規制が適用されるようになります。
しかし、この上限規制を自動車運転者業務にそのまま適用するには難しい部分があるため、その特殊性をふまえて下記のような独自のルールが適用されます。

  • 36協定の労使間合意による「特別条項」の上限規制を「年960時間」(一般業種では年720時間)にする
  • 「特別条項」における月単位の上限規制「単月100時間」、「複数月平均80時間を超えない」といったその他の制限は適用しない

労働契約上の変更点に関する注意

労働契約書・雇用契約書は締結する必要があるか?

では、改正にともなって「労働契約書・雇用契約書」を締結する際に、どのような点を注意すればよいでしょうか。
まず、そもそもの基本的なルールの説明となりますが、労働基準法第15条では、事業主は労働者を雇い入れる際に「法律上記載しなければならない労働条件の事項を書面による交付により明示しなければならない」というルールがあります。
必ず明示しなければならない労働条件の事項を書面にて交付していれば、「労働契約書・雇用契約書」といった形で契約の締結が必須というわけではありません。「労働条件通知書」という形で、使用者が労働者に通知すればよいことになります。
要するに、法により義務付けられているのは「労働契約書・雇用契約書」の作成ではなく、「労働条件の書面による明示」ということになります。

法改正にともなう、「労働条件の明示」の変更点は?

2024年4月から、「労働条件の明示」が必要な事項にも変更点が発生します。

勤務の場所-「変更の範囲」の明示

これまでは、労働条件の明示事項のひとつである「勤務場所」については、「雇入れ時」又は「更新契約時」の「勤務場所」について明示していれば足りましたが、改正法により追加内容として、「勤務場所の変更の範囲」まで明示する必要が生じました。

考えられる内容は、雇入れ時が「本社勤務」であった場合、今後の「勤務場所の変更」の範囲について、当該会社の「全国の営業所への転勤」「首都圏内のみの転勤」など、変更の可能性があればその内容を明示しなければならないことになります。

業務の内容-「変更の範囲」の明示

「業務の内容」の明示ルールについても、「勤務場所」と同様に、「雇入れ時」または「更新契約時」の「業務の内容」に加えて「業務内容の変更の範囲」まで明示する必要があります。

自動車運転業務として考えられるのは、雇入れ時が「ドライバー業務」であった場合でも、将来的に「会社の指定する全業務が対象なのか」「ドライバー業務から運行管理者業務に従事する可能性があるのか」「ドライバー業務のみで変更の可能性がないのか」「配置転換があるのか」など考慮し、変更の範囲を明示する必要があります。

期間の定めのある雇用(有期雇用)の場合-更新上限についての明示

期間の定めのある労働契約(有期雇用)について、「契約の更新に関する上限設定」をした場合には、「その上限」を「契約時」か「更新時」のタイミングで<明示する必要があります。
明示する設定内容としては、「更新●回まで」といった回数か、「通算契約期間●年まで」といった期間で設定する方法があります。

無期転換申込権に関する事項の明示

更新による通算契約期間が5年を超える場合における、無期転換申込権が発生する有期契約については、以下の記載内容を追加事項として明示する必要があります。
(記載内容)
本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日(●年●月●日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無(無・有(別紙のとおり))

まとめ

運送業界において、そのサービスはドライバーの長時間労働によって成り立ってきた部分が大きく、同時に様々な問題を抱えています。いよいよ働き方改革の関連法が適用されるという時を迎え、「2024年問題」として大きく取り上げられている状況です。
おそらく多くの事業者が上限規制によって売上減となり、ドライバーにとっても残業代による収入が減少することも予想されます。
そのため、業界全体としても運賃の値上げ等でカバーせざるを得ない状況が生じ、経済全体としてもコスト増などの影響が考えられるだけでなく、社会インフラとしての影響も図り知れないでしょう。
痛みは伴いますが、ドライバー特有の労働環境の課題・人材不足の課題は、変化する労働条件の規制に対応していかないことには解決できないように思われます。
業務委託などによる多重下請け構造となり、いくら働いても報われない事業者が生まれてしまう構造的問題を考えると、業務の効率化を図りながら、法を遵守した労働環境の整備とともに、就業規則や労働条件を明示する法的な書面(労働条件通知書、または必須明示事項を含む雇用契約書・労働契約書)も整え、雇用に対してしっかりとした取り組みをしていくことが、運送業界の今後の発展のためにも超えていくべき大きな課題の一つとなることは間違いないでしょう。

執筆者情報

エニィタイム行政書士事務所 代表 中村 充(行政書士)
早稲田大学商学部卒業後大手通信会社に入社、法人営業や法務業務に携わる。2009年に行政書士資格を取得し、2017年、会社設立及び契約書作成に特化した事務所を開業。弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士等各種専門家との連携体制を構築し、企業活動のバックオフィス業務すべてのことをワンストップで対応できることも強み。
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行政書士KIC事務所 代表 岸 秀洋(行政書士・銀行融資診断士)
司法書士事務所での勤務を経て、2006年に行政書士試験に合格、2014年に行政書士登録開業する。司法書士事務所勤務時代から約100件以上の会社設立サポートを経験してきたなかで、単なる手続き業務にとどまらない伴走者としてのサポートをしていきたいと考え、事業計画・損益計画の作成から融資のサポートや資金繰り計画など財務支援までおこなうのが強み。
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