雇用契約書・労働条件通知書の書き方は?注意点・正しく作るコツ
最終更新日:2024年08月28日
特に労働条件通知書は2024年4月より条件明示ルールが改正されるため、法改正に適応した書類を作成しておく必要があります。
本記事では、雇用契約書と労働条件通知書の違いと使い分け、雇用契約書と労働条件通知書の書き方や記載事項、ミスなく作成するコツを紹介しています。
雇用契約書と労働条件通知書の違いと使い分け
雇用契約書と労働条件通知書の違いと使い分けについて解説します。
雇用契約書とは
雇用契約書とは、企業と個人が雇用関係を結ぶ際、労働条件についてお互いに合意したことを示す書類です。
労働基準法第15条1項には、労働条件の明示が義務となっています。(【参考】労働基準法 | e-Gov法令検索)
上記の法律の条文では、雇用契約書の発行は義務付けられていません。労働条件通知書が発行されていれば、雇用契約書の発行はなくても良いとされています。
しかし、双方の合意を示す雇用契約書の作成によって、労働者の企業に対しての信頼を高め、また企業側も紛争を防ぐために契約書を作成することが通例です。
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは労働基準法第15条1項によって、義務付けられている書面です。企業は労働者を雇用するにあたって、労働条件を明示しなければなりません。
契約期間や賃金についての取り決めなどを文書で作成して発行します。ただし労働条件通知書は一方的に企業が労働者に対して条件を提示する書類であり、双方の合意の意味はありません。
万が一労働条件通知書も雇用契約書も作成していない場合は、法律違反となり30万円の罰金が課せられる可能性もあります。(【参考】労働基準法第120条 )
関連記事:労働条件通知書とは?記載すべき項目やルールを解説
雇用契約書と労働条件通知書の使い分け
雇用契約書と労働条件通知書の意味をそれぞれ簡潔にまとめます。
労働条件通知書…法律に基づき企業側が労働者に対して労働条件を提示する書類
労働条件通知書は、企業側が労働者に条件を提示する際に使われ、雇用契約書は労働条件通知書に記載がある内容に対して、双方の合意を証明する書類です。
企業としては、労働通知書を提示したあとに雇用契約書を締結することが望ましく、2部作成して双方で署名・捺印のうえ保管しておくことで、後ほどの労使トラブルを避ける効果があります。
雇用契約書の書き方
雇用契約書の書き方について解説します。
雇用期間
雇用契約書には雇用期間を明示します。
雇用契約には期間の定めがある有期労働契約と無期労働契約があるためです。
無期雇用の場合は期間の定めなしと記載し、有期雇用の場合は雇用期間の日付を明示しましょう。
勤務場所
労働者の勤務場所も雇用契約書に明示しましょう。
2023年7月時点の法律では、勤務場所は雇用後に配属される勤務場所と部署名を記載すれば良いとされています。
ただし、2024年4月以降は労働条件通知書の記載事項に就業場所・業務の変更の範囲の明示が追加されるため、今から雇用契約書を作成する場合は就業場所の変更範囲についても記載しておくことが望ましいです。
就業場所が転勤などで変更になる可能性がある場合は、配属される可能性のある部署や転勤先についても以下のように記載しておきましょう。
(変更範囲)東京本社・埼玉支店・神奈川支店
従事する業務内容
雇用契約書には従事する業務内容についても記載しましょう。
業務内容の記載方法に明確な基準はありませんが、複数業務に従事する場合は業務名を網羅的に記載します。
反対に専門職でひとつの業務のみに従事する場合は、専門的な分野を記載してください。
また、勤務場所と同様に2023年7月時点では雇い入れ直後の業務内容について記載すれば問題ありませんが、2024年4月からの労働基準法施行規則5条の改正に伴い、従事する業務内容の変更範囲も記載することが望ましいです。(【参考】令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます)
(変更の範囲)人事・総務・経理業務
勤務時間
雇用契約書に勤務時間についても明記してください。
勤務時間とは始業時間と終業時間、および休憩時間です。
勤務時間の記載は法令・就業規則に反しない範囲で設定しましょう。
法定労働時間の上限は1日8時間、週に40時間までと定められています。(【参考】労働基準法第32条1項・2項)
なお、変形労働制を導入している場合は、以下のように記載します。
なお、次月の勤務時間は毎月◯日までに通知するものとする。
・9:00から18:00(うち休憩時間1時間)
・9:30から18:30(うち休憩時間1時間)
・10:00から19:00(うち休憩時間1時間)
その他の変形労働制については、就業規則第◯条(〜第◯条)に定めるところによる。
フレックスタイム制を導入している場合は、以下のように記載しましょう。
ただし、以下の範囲での労働とする。
フレキシブルタイム
始業時間帯:8:30〜10:00
終業時間帯:16:00〜17:30
コアタイム
9:30〜16:00
休憩時間:1時間
その他のフレックスタイム制については、就業規則第◯条(〜第◯条)に定めるところによる。
休日
雇用契約書には、企業が任意で定めている所定休日を記載しましょう。
毎週土曜日・日曜日・国民の祝日および会社にて指定した日
【不定休の場合】
勤務シフト表により指定した日
所定外労働
雇用契約書には所定外労働についても記載します。所定外労働とは残業のことで、残業・休日出勤がある場合はその旨を記載しましょう。
雇用契約書に所定労働の有無を選択できるようにしておき、有・無に丸をつけます。
休暇
雇用契約書上の休暇とは、年次有給休暇などの法定休暇、特別休暇について記載します。
会社が定める特別休暇の種類が非常に多い場合は、就業規則の条項を参照するよう記載して省略することも可能です。
・その他休暇
1.夏季休暇(毎年8月13日から15日まで)
2.年末年始休暇(毎年12月最終営業日から1月3日まで)
※なお年始が土日祝日の場合を除く
賃金・諸手当等
雇用契約書には賃金や諸手当も記載します。
まず、賃金には基本給を記載し、その後諸手当についても追加します。
諸手当は通勤手当や家族手当、役職手当や技能給が代表的ですが、その他記載するものがあれば追加しておきましょう。
月額25万円
日給制の場合
日給1万円
時給制の場合
時給1,200円
昇給制度
昇給制度があるかどうかを選択式にして雇用契約書に記載しましょう。
【昇給時期・金額】
勤務成績その他が良好な場合に、毎年◯月◯日をもっておこなう。
ただし、会社の業績悪化ややむを得ない事由によってはおこなわれないこともある。
詳細は就業規則第◯条に定めるところによる。
賞与
ボーナスがある場合は、雇用契約書に賞与の有無を記載します。
【支給時期・金額】
毎年6月10日・12月10日に支給とする。
金額や算定対象期間・方法は就業規則第◯条による。
ただし、業績の著しい悪化ややむを得ない事由が生じた場合は支給しないことがある。
退職事項について
雇用契約書には退職関係の記載もしておきましょう。
定年制を導入している場合は、以下のように記載します。
継続雇用制度(有※70歳//無)
自己都合退職について記載する際は、以下のように記載しましょう。
その他就業規則違反による解雇事由についても記載しておきましょう。
就業規則第◯条〜第◯条による
就業規則遵守についての文言
雇用契約書には就業規則遵守についての文言を追加しましょう。
万が一就業規則違反があった場合の解雇をスムーズにするため、また就業規則に合意した旨の証明となります。
雇用契約書で判断に迷う事項が生じた際は労働法令に従う旨の文言
雇用契約書でカバーできない事項が生じた際のために、労働法令に従う旨の文書も付け加えましょう。
短時間労働者・有期契約労働者の場合
短時間労働者や有期契約労働者と雇用契約書を締結する場合は、原則正社員と同様に記載したうえで、契約更新について追記しておきましょう。
契約更新の判断基準
・契約期間満了時の業務量
・業務進捗状況
・能力・勤務態度・業務成績
・会社の経営状況
労働条件通知書の書き方
労働条件通知書は、企業側が労働者に対して労働条件を提示する書類です。
厚生労働省の労働条件通知書参考記入例も参考にし、正しい労働条件通知書を作る必要があります。(【参考】労働条件通知書 参考 記入例)
契約期間
労働条件通知書には契約期間を明確に記載します。
雇用契約書と同様に、以下のように明記しましょう。
契約期間の定めがない場合は、契約期間の部分は空白にして構いません。
契約期間:(年月日〜年月日)
就業場所
就業場所は勤務地と従事する部署について記載します。
2024年4月以降は労働条件通知書の記載事項に就業場所・業務の変更の範囲の明示が追加されます。
そのため、厚生労働省のガイドラインに従って就業場所や業務内容の変更範囲も記入しましょう。
就業場所が転勤などで変更になる可能性がある場合は、配属される可能性のある部署や転勤先について記載しておきます。
(変更範囲)東京本社・埼玉支店・神奈川支店
従事する業務内容
(雇用直後)総務業務・経理業務
(変更範囲)人事業務・事務業務
勤務時間の取り決め
勤務時間についても記載しておきましょう。
- 始業時間
- 変形労働制の場合
- フレックスタイム制
- 事業場外みなし労働時間制
- 裁量労働制
以上の5パターンを記載しておき、必要な部分だけ記入するように通知書を作成しておくと作成が容易となります。
午前9:00から午後18時まで(うち休憩時間1時間)
休憩時間(1時間)
所定外時間外労働の有無(有/無)
【以下のような制度が労働者に適用される場合】
変形労働時間制
1か月単位の変形労働制とし、勤務時間の組み合わせにて勤務する。
なお、次月の勤務時間は毎月◯日までに通知するものとする。
・9:00から18:00(うち休憩時間1時間)
・9:30から18:30(うち休憩時間1時間)
・10:00から19:00(うち休憩時間1時間)
その他の変形労働制については、就業規則第◯条(〜第◯条)に定めるところによる。
・フレックスタイム制
フレックスタイム制:始業・終業時刻は労働者の判断に委ねる。
ただし、以下の範囲での労働とする。
フレキシブルタイム
始業時間帯:8:30〜10:00
終業時間帯:16:00〜17:30
コアタイム
9:30〜16:00
休憩時間:1時間
その他のフレックスタイム制については、就業規則第◯条(〜第◯条)に定めるところによる。
・事業場外みなし労働時間制
始業◯時〜終業◯時
・裁量労働制
始業◯時・終業◯時を基本として、労働者の決定に委ねる。
※詳細は就業規則第◯条(〜第◯条)に定めるところによる。
休暇
休暇については以下のように記載し、有給休暇の日数などについても記載します。
6か月継続勤務した場合→10日
継続6か月以内での有給休暇(有/無)
時間単位年休(有/無)
・代替休暇(有/無)
・その他休暇
1.夏季休暇(毎年8月13日から15日まで)
2.年末年始休暇(毎年12月最終営業日から1月3日まで)
※なお年始が土日祝日の場合を除く
賃金や諸手当
基本給の記載や諸手当の金額と計算方法、所定時間外労働や休日出勤についての割増賃金率を記載しておきます。
・月給(〜万円)
・日給(〜万円)
・時間給(〜円)
・出来高給(基本単価〜円・保障給〜円)
・その他(〜円)
【諸手当の額または計算方法】
・( 手当:〜万円/計算方法: )
【所定時間外・休日または深夜労働に対して支払われる割増賃金率】
・所定外・法定超月60時間以内(25%)
月60時間超 (50%)
所定超 (〜%)
・休日 法定休日(35%)法定外休日(25%)
・賃金締切日(基本給):毎月末日(時間外・休日割増賃金についても同様)
・賃金支払日:翌月25日(時間外・休日割増賃金についても同様)
・賃金の支払い方法(本人名義の銀行口座へ振り込み)
・労使協定に基づく賃金支払時の控除(有( )/無)
・昇給(時期)
・賞与(有( 金額・支払時期 )/無)
・退職金(有( 金額・支払時期 )/無)
退職に関する事項
退職に関する事項についても記載しておきましょう。
・継続雇用制度(有※70歳//無)
・自己都合退職の場合(退職する 14日以上前に届け出ること)
・解雇事由および手続き
※詳細は就業規則第◯条〜第◯条に従う
短時間労働者・有期雇用契約者の場合
短時間労働者や有期雇用契約者の場合は、労働条件通知書に以下の記載もしておきましょう。
賃金の下に付け加えておくことで、後ほどのトラブルを回避できます。
無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時について
2024年4月より無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時についての記載が義務化されます。
そのため、無期転換の申込機会が得られる旨と、転換した場合の労働条件についても記載しておきましょう。
退職金の有無
労働条件通知書に以下のように退職金の有無を示せるようにし、有りの場合は金額や支払時期を記載します。
昇給制度について
昇給制度があるかどうか、またある場合は時期や判断基準についても記載します。
【昇給時期・金額】
勤務成績その他が良好な場合に、毎年◯月◯日をもっておこなう。
ただし、会社の業績悪化ややむを得ない事由によってはおこなわれないこともある。
詳細は就業規則第◯条に定めるところによる。
賞与
賞与については以下のように記載します。
【支給時期・金額】
契約期間の定めによって〜月〜日(契約期間内)に支給する。
ただし、会社の業績悪化ややむを得ない事由によってはおこなわれないこともある。
相談窓口について
正社員よりも立場が弱い短時間労働者や有期雇用契約者に対して、労働環境や条件についての相談窓口を設置し、その情報を記載しましょう。
一般的に人事部の窓口を記載するケースが多いです。
雇用契約書・労働条件通知書の書き方に関する注意点
雇用契約書や労働条件通知書の書き方について、3つの注意点を紹介します。
雇用形態ごとに記載事項を確認
雇用契約書や労働条件通知書には、雇用形態ごとに書き方が異なる事項があります。
基本的にすべての雇用形態を網羅するテンプレートを作成しておき、雇用・勤務形態に合わせて記載できるようにしておいてください。
記載事項の抜けもれ
労働条件通知書は特に法律上で発行が義務化されており、記載事項に漏れがあると後ほど労使間のトラブルに発展しやすいです。
記載事項に抜けがないように、作成後は社労士や法務関係者にチェックしてもらい、正しい書類を作成しましょう。
電子交付する場合の運用体制
労働者が電子媒体での交付を希望した場合は、労働条件通知書や雇用契約書を電子媒体で発行できます。
ただし、企業側の一方的な希望では認められない点に注意してください。
労働者が電子化を希望した場合は、労働者本人のみが閲覧でき、かつ労働者が事由に出力できる形式で発行する必要があります。
電子メールやPDFの送付など運用ルールを決めておき、また工夫した契約書や通知書の管理体制も整えておきましょう。
雇用契約書・労働契約書のテンプレート紹介
雇用契約書・労働条件通知書をミスなく作る方法
雇用契約書や労働条件通知書をミスなく作るには、テンプレートの使用がおすすめです。その他作成時にミスなく作成するコツを紹介します。
テンプレートの使用
雇用契約書や労働条件通知書はテンプレートを使って作りましょう。テンプレートは必要事項が盛り込まれており、ミスなく労働条件通知書や雇用契約書を作成できます。
注意点としては古いテンプレートを使用すると、法改正に対応していない危険があることです。厚生労働省のホームページで改正がないか確認したうえで、テンプレートを使って効率的に雇用契約書や労働条件通知書を作りましょう。
テンプレートBANKにて公開している雇用契約書のテンプレート、労働条件通知書のテンプレートも参考にしてください。
法務チェック
雇用契約書や労働条件通知書を作成したあとは、労務担当者や法務部にチェックを通して問題ないか確認してください。専任者がいない場合は、社労士など専門家に確認してもらうことをおすすめします。
テンプレートを使用したとしても、自社の業務規則に沿ったものではないと効力を発揮せず、契約書に矛盾が生じます。
必ず法的な知識を持った人事労務の担当者にチェックしてもらってください。
まとめ
雇用契約書や労働条件通知書は、労使間のトラブルを避けるためにも必要です。特に労働条件通知書は法律で義務づけられた書類であり、ミスなく確実に発行されなければなりません。
しかし、1から契約書や労働条件通知書を作成すると手間がかかるうえ、ミスが起こるリスクもあります。
雇用契約書や労働条件通知書はテンプレートを活用し、記載漏れなく法令を遵守して作成しましょう。
監修者情報
みのだ社会保険労務士事務所 代表 蓑田真吾(社会保険労務士)大学卒業後、鉄鋼関連の企業に総合職として就職し、その後医療機関人事労務部門に転職。約13年間人事労務部門で従業員約800名、新規採用者1,000名、退職者600名の労務、社会保険の相談対応にあたる。社労士資格取得後にみのだ社会保険労務士事務所を開設し、独立。東京都社会保険労務士会所属(登録番号 第13190545号)。
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