変化する労働環境-雇用と業務委託、その違いと注意点
最終更新日:2024年04月11日
2024年問題としても取り上げられ一層注目を浴びる「働き方改革」。労働環境の改善とともに「多様な働き方への対応」が進んだこと、また、事業主側からみれば、雇用による人材確保の難しさ・コスト増を克服する手段として「業務委託」を活用する企業が増えてきました。
本コラムでは、「働き方改革により労働環境がどのように変わるのか?」について確認するとともに、増えつつある「業務委託」について、雇用との違いや注意点について解説します。
- 「働き方改革」の背景
- 働き方改革関連法により具体的にはどのような変化が?
- 残業時間の上限規制
- 年次有給休暇の年5日取得義務
- 高度プロフェッショナル制度の新設
- フレックスタイム制の清算期間が延長
- 長時間労働者に対する医師による面接指導のガイドライン見直し
- 労働時間の状況把握
- 勤務間インターバル(休息時間)の努力義務
- 同一労働同一賃金
- 時間外労働(残業)の賃金割増率が引き上げ
- 多種多様な働き方への対応
- 業務委託契約を活用する場合の注意点
- 働き方の実態が雇用と混同された形になっていませんか?
- 雇用契約とは?
- 使用従属性とは
- 労働基準法との関係
- 業務委託契約とは?
- 請負契約
- 委任契約
- 準委任契約
- まとめ
「働き方改革」の背景
少子高齢化が進むなかで、生産年齢人口の減少がもたらす「人材不足」は今まさに日本社会全体の課題となっています。
人材の獲得は、今や企業にとっても喫緊の課題です。
採用段階でまず苦労があり、さらには、せっかく採用した人材を定着させることも困難な時代へと突入しました。多様性の時代になり、人それぞれの働き方に対する価値観の違いが顕著になっているためです。
働き方改革関連法の改正には、そのような労働環境の変化に対応し課題を解決する、といった目的があります。
働き方改革関連法により具体的にはどのような変化が?
働き方改革関連法の改正により、具体的に何がどのように変わったのか?この点を整理しておきましょう。
残業時間の上限規制
労働基準法の改正により、時間外労働(残業)の上限規制が設けられました。
具体的には、残業時間の上限が「原則月45時間・年360時間」と定められており、2019年4月から順次施行されています。
なお、昨今よく耳にする「2024年問題」とは、これまで規制の適用が除外されてきた「建設業・運送業のドライバー等・医師」に対しても2024年4月から適用されますが、それに伴い発生するであろう様々な問題のことをいいます。
年次有給休暇の年5日取得義務
労働基準法の改正により、年に10日以上の年次有給休暇が付与されるすべての労働者に対して、毎年5日の年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。
高度プロフェッショナル制度の新設
年収が1,075万円以上の一部の専門職を対象に、本人の同意を要件として、労働時間規制の適用対象外となる制度が新設されました。
フレックスタイム制の清算期間が延長
労働時間の調整が可能となる「清算期間」の上限が、1ヶ月⇒3ヶ月に延長されました。
長時間労働者に対する医師による面接指導のガイドライン見直し
医師の面接指導が必要となる長時間労働の残業・休日労働時間の条件が、月100時間⇒80時間に引き下げられました。
労働時間の状況把握
労働安全衛生法の改正により、客観的な方法で労働者の労働時間を把握し記録することが義務となりました。
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勤務間インターバル(休息時間)の努力義務
終業から次の始業開始時間までの勤務間インターバル(休息時間)を、一定の時間確保することが努力義務となりました。
同一労働同一賃金
労働契約法等の改正により、正社員と非正社員(有期雇用、パートタイム、派遣労働者)との間で不合理な待遇格差を設けることが禁止されました。
時間外労働(残業)の賃金割増率が引き上げ
労働基準法の改正により、月60時間超の時間外労働に対する賃金の割増率が、50%以上に引き上げられました。
上記のように、働き方改革関連法の改正は労働環境の改善に繋がる一方で、使用者である事業主側からすると、人材を確保し管理するための負担が大きく増加しています。
多種多様な働き方への対応
このような働き方改革による制度の改正により、労働環境が変化し、働き手にとっても多様な働き方に応えてくれる職場の選択が可能となりました。
昨今では副業を認める企業も増加しており、専門的な能力や経験を活かしフリーランスとして個人事業を兼業する働き方も増えつつあります。
事業主側からしても、このような多種多様な働き方へのニーズに対応し、雇用するだけでなく「業務委託」を活用して事業を展開することは大きなメリットの一つといえます。
「働き方改革」は、事業主側にとっては負担が増えた部分もありますが、時代の流れや社会のニーズに対応した労働環境を整えることで会社にとって必要な人材を確保しやすくなる、といった見方もできます。
また、業務委託をより活用することができれば、雇用における「社会保険料の負担」や業務遂行に必要な「人材の採用や育成」といったコストをかけることなく事業を展開することも可能になります。
業務委託契約を活用する場合の注意点
業務委託はメリットも多いですが、注意しなければならない点もあります。
働き方の実態が雇用と混同された形になっていませんか?
業務委託契約で注意しないといけないのが、「業務委託契約という名のもとで雇用とみなされる労働になっていないか」という点です。
業務委託においては、雇用する場合と異なり、使用者側に指揮・命令権がないほか、労働時間や報酬の算出方法についても気をつけなければならないことがあります。
具体的には以下の点に注意が必要です。
指揮・命令をしないように注意
雇用ではないので業務の進め方についての指揮・命令権はありません。業務委託契約の相手に現場で指示命令をすると雇用契約と判断される可能性があります。
報酬の算出方法に注意
労働時間による対価となるような算出をして報酬を支払うと、雇用とみなされる可能性があります。
もし雇用とみなされてしまうと、重い処罰を受けることになってしまう可能性があるので注意が必要です。
ここで、「雇用」と「業務委託」それぞれの契約形態の違いについて確認しておきましょう。
雇用契約とは?
民法第623条に定義された契約である「雇用契約」のことを指しています。
「雇用契約」とは、労働者が使用者(雇用主)のもとで労働に従事する契約であり、使用者(雇用主)はそれに対して賃金を支払う約束をする契約になります。
正社員、パートタイマー、アルバイト等の違いは問わず直接雇用する契約が該当します。
ここで、一つポイント!
雇用契約では、契約する両者の間には『使用従属性』が存在します。
簡単に言いますと、『主従関係』とも言える契約関係になります。
使用従属性とは
『使用従属性』といっても日常的に使われる言葉ではありませんから、ピンとこないかもしれません。具体的に説明します。
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
使用者側からの仕事や業務に対する具体的な依頼に対して、労働者側に諾否の自由があったら、その関係は対等といえます。雇用契約においては、その諾否の自由がないと考えられます。
場所・時間的な拘束性の有無
労働者が、「勤務場所や勤務時間」を使用者から指定され管理されるような指揮監督下にある関係をいいます。
賃金体系が仕事の結果ではなく「勤務時間を基準」に決定される
仕事の成果ではなく、勤務した時間を基準としているので、残業手当や休日出勤手当等も発生してきます。
業務上必要となる機具・用具等の提供
業務に必要となる機具・用具等は使用者側が準備し労働者に提供する必要があります。
労働基準法との関係
雇用契約においては『使用従属性』が存在し、使用者側の指揮監督下のもとで労働しなければなりません。そこで、労働者が不当な条件のもとで労働契約することにならないよう、「労働基準法」などの法律によって守られているわけです。
労働基準法における雇用契約をする際の重要な事項として、『労働条件の明示義務』があります。
一般的には、「雇用契約書」や「労働条件通知書」を作成して、就業場所・就業時間・休日休暇・業務内容など、法律で定められた事項の労働条件を明示します。
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業務委託契約とは?
これまで解説してきた『雇用契約』と『業務委託』の一番の大きな違いは、そもそも契約形態が違う点になります。
はじめに、『業務委託』という契約は、契約形態の総称的なものと捉えてください。
法律上の契約としては主に民法に定義される『請負契約』・『委任契約』・『準委任契約』にあたる契約、もしくはこれらの複合的な契約を総称して『業務委託契約』と呼んでいます。
それでは、『請負契約』・『委任契約』・『準委任契約』の3つをそれぞれ確認していきましょう。
請負契約
請負契約とは、当事者の一方が相手方に対して仕事の完成を約し、この仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することによって効力を生じる契約です(民法632条)。
委任契約
委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによってその効力を生じる契約です(民法643条)。
例をあげますと、法律行為とは「代理人に委託して、自分の代わりに契約行為をしてもらう」ような契約です。契約という法律行為を委託しているわけです。
準委任契約
委任契約と似たような契約に、準委任契約があります(民法656条)。
この準委任契約が、委任契約と何が違うかといいますと、委任契約は法律行為を委託する契約であるのに対して、準委任契約は事実行為を委託する契約という点になります。
事実行為とは、「法律行為に該当しない行為を委託する」契約になりますので、事務処理などの作業を委託したりするケースが該当します。
そのため、実際の取引における業務委託契約のケースとしては、「委任契約」に該当する契約よりも「準委任契約」に該当する契約のケースが多いのではないでしょうか。
業務委託における雇用との違いは、「請負」にしても「委任」にしても、ある仕事を委託する契約という点で大きく違います。
そして、『雇用契約』と『業務委託』は、指揮監督権の有無・報酬の発生の仕方、という点において大きな違いがあります。
この点をふまえて、必要な人材・労働力の確保という点においてどの契約が適しているかを判断して使い分けていくことになります。
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まとめ
今回は、2024年問題との絡みで再び注目されている「働き方改革」により、労働環境がどのように変わったか、また、「雇用」「業務委託」といった労働力確保のための契約形態をテーマに解説しました。
事業者にとって、「雇用」だけでなく「業務委託」にも目を向け、それぞれの契約形態の違いやメリット・デメリットを理解し、戦略的な人材確保が求められる時代に入ったことをご理解いただけたのではないでしょうか。
競争力の求められる時代において、労働者側の多種多様な働き方やニーズに対応していくには、「業務委託」といった契約形態の需要が今後ますます増えてくると思われます。
そして、2024年の秋頃に施行予定となる「フリーランス保護新法」など、法的な制度の整備がさらに進んでいくなかで、事業主側の受入体制の整備が一層重要となる時代に入ったといえるのではないでしょうか。
執筆者情報
エニィタイム行政書士事務所 代表 中村 充(行政書士)早稲田大学商学部卒業後大手通信会社に入社、法人営業や法務業務に携わる。2009年に行政書士資格を取得し、2017年、会社設立及び契約書作成に特化した事務所を開業。弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士等各種専門家との連携体制を構築し、企業活動のバックオフィス業務すべてのことをワンストップで対応できることも強み。
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行政書士KIC事務所 代表 岸 秀洋(行政書士・銀行融資診断士)
司法書士事務所での勤務を経て、2006年に行政書士試験に合格、2014年に行政書士登録開業する。司法書士事務所勤務時代から約100件以上の会社設立サポートを経験してきたなかで、単なる手続き業務にとどまらない伴走者としてのサポートをしていきたいと考えるようになる。事業計画・損益計画の作成から融資のサポートや資金繰り計画など財務支援までおこなうのが強み。
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