請負契約締結時に押さえておくべき10のポイント&注意点
最終更新日:2024年09月02日
※本記事は、下請法適用対象外取引を前提として記載しております。下請法適用対象取引の場合は別途下請法規定事項に従って適切に実施願います。
請負とは
業務委託契約書における「請負」とはそもそもどういったものを指すのでしょうか。まずはこの点を押さえておきましょう。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
上記のとおり、「請負」とは、発注側(=法律上は注文者と言いますので以降は「注文者」とします)がある仕事の完成を依頼し、受注側(=法律上は請負人と言いますので以降は「請負人」とします)が当該仕事の完成を約し、注文者が当該仕事の完成結果に対して対価を支払うことを約するものとなります。
よって、請負契約は、
1)完成対象となる仕事
2)完成対象となる仕事を請負人が完成させることの約束
3)注文者が完成結果に対する対価支払うこと
以上3点の合意が両者で形成されていれば契約書を取り交わさずとも契約が成立(=諾成契約)することになります(建設業法や下請法等一部書面締結が法定されているものは除きます)。
「請負」の最大のポイントは、仕事の完成を目的としているという点にあります。よく「請負」とよく似た「委任」との違いは何だろうと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、簡単に言うと、その違いは「目的が異なる」という点になります。
「請負」の目的は仕事の完成(=結果が重視される)であり、「委任」の目的は事務の処理(=過程が重視される)ということになります。その他、細かい相違点はいろいろありますが、いったんはこのイメージで覚えていただければと思います。
法的義務
次に請負契約締結時に請負人・注文者双方にどのような義務が課されるのかについてご説明します。
請負人側に生じる義務
- 1)完成義務(民法第632条)
「請負」の法的性質が、仕事の完成を約することであるため、請負人側にはまず当該仕事を完成させる義務が当然に生じます。 - 2)契約不適合責任(民法第559条、民法第562条等)
請負人が完成義務を負っていることの当然の帰結として、請負人は完成物に不具合等があった場合当該不具合を修補する等の義務が生じます。
注文者側に生じる義務
- 1)報酬支払義務(民法第632条)
「請負」のもう一つの大事な法的性質が、仕事の完成に対する対価の支払いであるため、注文者は請負人が仕事を完成させたという結果に対する報酬支払義務が生じます。 - 2)指図に基づく第三者に対する賠償義務(民法第716条)
原則、注文者は請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する義務は負いませんが、請負人が注文者の指図に従った結果、第三者に損害を与えた場合については、当該第三者に生じた損害を賠償する義務を負うことになります。
請負契約締結時の確認すべきポイント
最後に、請負契約を締結する際に確認すべきポイントについてご説明します。契約書上に、次に挙げた事項についてどのように定められているのかご確認のうえ、取引実態と照らし合わせてリスク有無判断にご活用いただければ幸いです。
●業務内容
●納期・納入場所
●契約内容・条件変更時の扱い
●再委託
●検収・検査
●支払方法
●契約不適合
●所有権の移転
●著作権の扱い
●損害賠償
業務内容
「請負」は仕事の完成を目的としていることから、どういった仕事を完成させなければならないのかは明確かつ具体的に定める必要があります。
この、「明確かつ具体的に」という点が非常に大事になります。業務内容を抽象的にしたまま契約をすることは非常に危険なのです。
一つの例をあげます。あなたは料理人であり、お客様から「ラーメンを500円で作って欲しい」と依頼されたとします。
お客様はとんこつラーメンが大好きで「ラーメン=とんこつラーメン」が当たり前と考えており、一方であなたは「ラーメン=みそラーメン」が当たり前と考えていたとします。そのお客様に(とんこつでない)みそラーメンを提供した結果、お客様は「これはラーメンじゃない。だからお金は支払わない。もしくはとんこつラーメンを作り直せ」といい。あなたは「いやいや、オーダー通りラーメンを作ったんだから作り直す必要はないし、お金は支払ってもらわないと困る」とトラブルに発展することは容易に想像できるのではないのでしょうか。
実は、契約上のトラブルはこういった思い込みの違いから生じるケースは多くあります。
よって、業務内容は後々こういったトラブルを防止するためにも、明確かつ具体的に定める必要性があるというわけです。
契約書を作成する際には、自分の常識=相手の常識との考えはいったん忘れていただき、必ず業務内容については誰が見ても認識齟齬が生じない程度に明確かつ具体的に定め、どういった業務を実施しなければいけないのかを双方にて合わせておきしましょう。
業務内容は請負契約の出発点であり、一番重要な要素であると言っても過言ではありません。
納期
こちらも業務内容同様、請負契約の基本であり、重要な要素であると言える事項となります。
仕事の完成を依頼するということは何かの目的を有しているためであり、そういった意味ではその何かの目的を達成するための期日というものは存在しているはずです。期日はいつでもいいからこの仕事をいくらでお願い、ということはあまりないと思います。
いつまでに完成をさせるという納期を双方で合意することにより、初めて相手方に対し、期日が過ぎているため早く仕事を完成させるよう主張することが可能になります。
請負契約を締結する際は、納期はきちんと定められているか、またその納期はしっかりと仕事を完成させるに適切な期間となっているかを双方にて確認しましょう。
契約内容・条件変更時の扱い
契約途中で業務内容が変更になったり、細かい仕様が変更となることはよくあることだと思います。このような場合、皆様はどのように対応されていますか。
実は、こちらもトラブル発生が度々みられる事項となります。
たとえば、システム開発請負契約を例にとってみましょう。
システム開発では、契約締結後に仕様や実現希望機能が変更されることはよくよくあることです。それに対し、請負人としては、変更対応にかかった分として追加費用を最後にまとめて注文者に請求しようと考えており、注文者の指示に応じていました。そして開発も無事完了し、追加費用について注文者に請求したところ、注文者より「当初の契約金額内でこれらもすべて実施いただけると思っていた。追加費用がかかるなら指示をしなかった」と言われてしまい・・・
ちなみにこれは実際に起きたトラブルです。
このようなトラブルを防止するためにも、契約内容や条件が変更となった場合、どのような処理をおこなうのかを事前に契約書上に規定することをおすすめします。
具体的には、変更時には、その内容や費用の扱い等につき双方押印された書面で確認する義務を課し、書面締結されなかったものは変更が有効とならないように定める方法です。
変更頻度が高く、一々書面締結は無理とのことであれば最低限メールにてその扱いについて合意しておき、当該メールをしっかりと保管しておく方法が考えられます。
再委託
「委任」の場合は、自分が受けた仕事を依頼者に無断で第三者にお願いすることは法律上禁じられています(民法第644条の2)。
一方で「請負」の場合はこのような規定はないので、第三者にお願いすることは法律上禁止されてはいません。
しかし、請負側が勝手に第三者に再委託をおこなえば、注文者側としては「請負人に対して仕事の完成をお願いしたのであって、請負人以外の第三者にお願いをしたのではない」と考えるのではないでしょうか。
注文者側の立場であれば、勝手な再委託を防止するためにも「再委託する際には注文者側の承諾を必ず得なければならない」との条件を付し、再委託の実施可否について自らでコントロールできることが望ましいです。また、再委託を可能とした場合であっても、請負人が負っている義務(例:秘密保持義務)と同じ義務を課すことや、再委託先が不相当等と判断せざるを得ない状況となった場合、注文者側にて許可した再委託を無条件で撤回できる等様々な条件をつけることが望ましいでしょう。
一方、請負人側の立場であれば、自分の判断で注文者側の承諾を得ることなく再委託をおこなうことを可能とし、注文者のコントロールを受けないようにすることが望ましい、ということになります。
なお、再委託を認めた場合に、再委託先によるミス等で損害が生じた場合、誰がその責任を負うのかというと、再委託のミスであっても請負人がその責任のすべてを負う内容となっていることが一般的な契約条件であると思います(ただし、注文者が再委託先を指定した場合は適用除外とするよう規定すべきです)。
請負契約を締結する場合は、再委託が可能か否か、また可能である場合の条件を確認しましょう。
検収・検査
仕事の完成がその目的となる「請負」ですので、請負人が完成させたその仕事がちゃんとお願いしたとおりの内容となっているかを検査することは絶対に必要になります。
この場合、検査方法や何をもって業務完了とするのか等を具体的に定める必要があります。
まず、検査方法ですが、仕様を満たしているのかを一通り確認するのか、サンプルで動作確認をおこなうのか等、どのような方法で、また、どのようなスケジュールで検査をおこなうかについて確認しましょう。
スケジュールですが、一般的には、業務終了後請負人が注文者に対し業務が終了した旨通知⇒注文者は10日前後(業務内容により異なります)で検査基準に従い検査をし、注文者が請負人に対し検査結果を通知(期限を経過しても注文者より何も連絡がない場合は合格したものとみなすと言った条件もよくあります)⇒注文者からの検査合格通知をもって依頼した業務が正式に完了する、といった流れがよくある内容ではないでしょうか。
契約金額・支払方法
仕事の完成の対価として注文者から支払われる対価も「請負」であることの重要な要素となります。
契約金額がいくらになるかを定めずに契約をおこなうことはないと思いますが、よくあるトラブルは、契約金額が消費税込か消費税別かを明確に記載せずに揉めるパターンです。
契約金額を定める際は、消費税の扱いについても必ず定められているかを確認しましょう。
あとは、契約金額は何に対する対価であるのかを確認することもポイントとなります。例えば、ポスター制作のような著作物を創作する業務を依頼する場合、当該著作権の移転にかかる対価は契約金額に含まれているのか、等です。
支払方法で確認すべきポイントですが、いつまでにどのような方法で支払うかが明確化されているかを確認しましょう。
具体的には、契約金額の支払期日がいつで、支払は口座振込で一括払いなのか分割払いとなるのか、現金手渡しなのか、手渡しであればどこで受け取るのか等となります。
あと、時々軽く問題となっている場面を見かけるのが、振込時の手数料はどちらが負担をするかについてです。
注文者側が社内ルールや慣習等の理由で振込手数料を差し引いて入金をしてきて釈然としない思いをしたことありませんか。
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
民法では、上記のとおりとなりますので、契約金額支払債務を有している注文者が振込手数料を負担することになるのですが、契約書に記載がないと少々言いにくいですよね。ですので、事前に振込手数料の負担元を明記しておけば納得感が得られると思います。
契約不適合
前記にて、請負人は完成義務があることの裏返しとして、仕事の完成物に不具合等があった際に契約不適合責任を負うと説明させていただきました。
まず、契約不適合責任について確認する前に覚えておかなければならない事項は、請負人は法律上どのような責任を負っているかという点です。
- 1. 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
- 2. 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
(第563条)
- 1. 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
- 2. 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
- 一 履行の追完が不能であるとき。
- 二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
- 三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
- 四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
- 3. 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
(第564条)
前二条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
民法において契約不適合責任として、注文者は請負人に対し以下の請求が可能であると定めています。
1)追完請求:不具合部分の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し
2)代金減額請求:契約金額の減額
3)損害賠償請求:契約不適合に起因して生じた損害の賠償
4)契約解除:当該請負契約の解除
なお、契約不適合責任を請求できる期間は「不適合を知ったときから1年以内」です。
民法で定められている事項は多くのものについて、両者の合意によって、その内容を変更することが可能です(これを任意規定といいます)。
ちなみにこの契約不適合責任も契約書上で合意すればその期間や内容について変更することができます。
よって、契約書では契約不適合が上記民法の規定と比較してどうであるかを何よりも先に確認する必要があります。
契約不適合責任について、契約書の記載条件が、民法規定と比較して注文者側により有利な条件となっていることはあまりないと思いますが、たとえば、請求期間が「引渡日から6か月以内」となっていれば請負人側に有利な条件であると判断できますし、請負人の責めに帰すべき場合のみ契約不適合責任が請求できるようになっていたり、追完請求しかできないようになっている場合も請負人側に有利な条件であると判断できます。
所有権の移転
これは、仕事の完成物の所有権がいつ請負人から注文者に移転されるか、その時期について定める条項です。
「検査合格時」または「契約金額支払時」を移転時期とするのがよく見られるパターンだと思います。
所有権移転時期が時間的に早ければ早いほど注文者に、遅ければ遅いほど請負人に有利な条件になります。
ですので、当該取引が検査合格後に契約金額を支払うという条件であることを前提とすると、検査合格時に所有権が移転するという条件は注文者有利となり、契約金額支払時に所有権が移転するという条件は請負人有利になります。
これは所有権という権利の強力さにその理由があります。
所有権とは、「法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利」であり、仮に契約金額支払時に所有権が移転する条件となっていた場合、請負人は契約金額が注文者から支払われない場合、自分が保有している所有権に基づいて完成物を引き上げることができます。
契約をされる際は所有権移転時期がいつとなっているかを確認し、想定している取引に支障が生じないかを確認しましょう。
著作権の扱い
請負契約を締結する場合、ポスター制作やHP制作のようにその完成物が著作物となる取引も多く存在するかと思います。
この場合の著作権が誰に帰属するのかを規定しておかないと、以後の業務運営に大きな支障が生じることにもなりえます。
法律上では、著作物を創作した者に著作権は帰属することになります。
こちらでまず覚えておいていただきたいことは、契約書上著作権の扱いについて何も定めがなければ著作物を創作した者に当該著作物の著作権が帰属するということになりますので、お金を支払っているからという理由で注文者側に勝手に移転されるものではないということです。
ただ、この規定も任意規定であり、契約書上でこれとは異なる合意をした場合はこの限りではありませんので、もし注文者側に著作権を移転する必要性があるのであれば契約書上その旨定める必要があります。
報酬をお支払いし、作成をお願いしているわけですので、注文者に著作権が移転される条件が一般的であるかとは思いますが、この場合であっても、必ず著作者人格権の不行使についてセットで規定する必要があります。
著作者人格権とは、「公表権・氏名表示権・同一性保持権」の総称をいい、こちらは人格そのものに付与される権利であり、著作権のように両者の合意をもっても移転させることはできません。代わりに著作者人格権を行使しないことを契約書上にて宣言していただく必要があります。
著作権を移転させる場合は同時に著作者人格権の不行使についても規定することを忘れずに実施願います。
損害賠償
損害賠償については、お金に関することですので、どのような契約を締結する場合でも気になる条項ではないでしょうか。
損害賠償については、契約不適合同様、法律の規定がどのようになっているかを知ることが重要になります。
- 1. 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
- 2. 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
民法上は、通常生ずべき損害及び特別な事情によって生じた損害であっても予見すべきだったものを損害賠償の範囲と定め、当該範囲に該当する損害をすべて賠償するよう定めています。
よって、契約書では上記民法の規定と比較してどうであるかを確認する必要があります。
損害賠償についても、契約書の記載条件が、民法と比較して注文者側により有利な条件となっていることはあまりないと思いますが、たとえば、賠償範囲が通常生ずべき損害のみとなっていれば請負人側に有利な条件であると判断できますし、損害賠償の額について契約金額を上限とするとなっている場合も請負人側に有利な条件であると判断できます。
以上、請負契約締結時に確認すべきポイントについて解説させていただきました。
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文:行政書士 中村 充(エニィタイム行政書士事務所 代表)
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業務委託契約書は、業務を外部に委託する場合に、委託内容や期日・契約期間、報酬、秘密保持などの契約内容を明記し、委託者と受託者の間で取り交わすものです。
業務内容や取引条件を明文化することにより、双方が共通認識を持ち、トラブルを防止することができます。
業務委託契約には「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3タイプがあります(準委任契約は委任契約の一種ですので「委任契約」と記載されることもあります)。
ソフトウェア開発やデザイン制作、建設工事など、仕事の完成を目的とし、成果物の完成・引き渡しをもって報酬が支払われるものを「請負契約」と言います。
一方、業務の遂行を目的とし、成果物ではなく業務の遂行そのものに対して報酬が支払われるものを「委任契約」と言います。そのうち、訴訟や契約交渉など法律行為を委任する場合は「委任契約」、保守・管理業務や事務処理など法律行為以外の業務を委任する場合は「準委任契約」と言います。
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