ビジネスで、取引を始める際には様々な契約書が取り交わされますが、中でも「業務委託契約書」は目にする機会が多いのではないでしょうか。
経営者や管理部門に限らず、企画、開発、制作、製造などあらゆる部門で扱う可能性がある契約書です。法人だけでなく、個人事業主の方も同様です。
もしあなたが取引先に仕事をお願いしたり、逆に仕事を受ける立場なら、「業務委託契約書」について理解しておきましょう。
本コラムでは、業務委託契約書を締結する目的や取り決めるべき内容(記載事項)、注意点などについて解説します。
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業務委託契約書とは?
企業では、業務の一部を外部に依頼するケースが少なからずあると思います。たとえば、ソフトウェア・システムの開発やデザイン制作、原稿執筆、また、システムの保守・運用や会計処理。その他、弁護士への訴訟や契約交渉の代理対応や、税理士への税務申告書の作成依頼などもあるでしょう。
このように、企業などが他の企業や個人に対して業務を委託する際、業務内容や取引条件を明確にするために取り交わすのが「業務委託契約書」です。
なお、「業務委託契約」には、3つの種類があります。上記の例でいうと、開発やデザイン制作、原稿執筆は、成果物の完成(納品)をもって報酬が支払われる「請負契約」。保守・運用(成果物の完成がない業務に限る)や会計処理は、業務の遂行に対して報酬が支払われる「準委任契約」。そして、訴訟や契約交渉の代理は、法律行為を代行する「委任契約」になります(準委任契約、委任契約をまとめて「委任契約」と総称することもあります)。
これらはその種類によって、期日や報酬の定め方、支払い方法などが異なります。
テンプレートBANKでは、取引内容に応じて各種業務委託契約書テンプレート(雛形)を提供しています。
業務委託契約書は、業務を外部に委託する場合に、委託内容や期日・契約期間、報酬、秘密保持などの契約内容を明記し、委託者と受託者の間で取り交わすものです。
業務内容や取引条件を明文化することにより、双方が共通認識を持ち、トラブルを防止することができます。
業務委託契約には「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3タイプがあります(準委任契約は委任契約の一種ですので「委任契約」と記載されることもあります)。
ソフトウェア開発やデザイン制作、建設工事など、仕事の完成を目的とし、成果物の完成・引き渡しをもって報酬が支払われるものを「請負契約」と言います。
一方、業務の遂行を目的とし、成果物ではなく業務の遂行そのものに対して報酬が支払われるものを「委任契約」と言います。そのうち、訴訟や契約交渉など法律行為を委任する場合は「委任契約」、保守・管理業務や事務処理など法律行為以外の業務を委任する場合は「準委任契約」と言います。
テンプレートBANKでは、タイプ別・委託業務別に契約書雛形をご用意していますので、取引内容に合ったものをご利用ください。
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業務委託契約書の目的とは?
「業務委託契約書」によって業務内容や取引条件を明らかにし、書面化することで、委託者・受託者双方が認識を共有し、齟齬なく業務にあたることができます。秘密保持や禁止事項、知的財産権の扱いや第三者委託の可否などを定めることで「やってよいこと、だめなこと」の判断もしやすくなります。また、納期に間に合わない、成果物が品質に満たない、期日までに報酬が支払われない、など契約不履行があった場合の対応をあらかじめ定めておくことによって、抑止力になると同時に、万が一そのようなことが発生した場合でも適切に対処することができます。
逆に、契約内容が曖昧であったり記録として残っていないと、認識の違いや契約違反によるトラブルが発生する可能性が高まります。
業務委託契約と雇用契約の違いは?
業務委託においては、士業などの有資格者、技術者など、専門的な知識・スキルを持った個人に委託するケースも少なくないでしょう。ここで注意しなければいけないのが「雇用契約とは違う」ということです。
業務契約の場合、まず、委託者と受託者は対等な関係でなければなりません。委託者は受託者に対し、業務の内容、場合によってはやり方などは指示しますが、業務の遂行にあたって直接指揮・命令をおこなうことは基本ありません。また、契約の範囲外の業務を依頼することもできません。
それに対して雇用契約は、従業員は雇用主の指揮命令のもとで業務をおこない、多くの場合、労働時間が定められ、その労働時間に対して賃金が支払われます。
業務委託契約であるにもかかわらず従業員と同じような働かせ方をすると労働法上問題になる場合もありますので、注意が必要です。
業務委託契約の種類一覧
冒頭でも説明したとおり、業務委託契約は、請負契約、委任契約、準委任契約の3種類に分類されます。
成果物の完成(納品)を目的とする「請負契約」
委託された仕事を完成させ、その成果物を納品することで業務が完了、報酬が支払われる契約です。受託者は、成果物の品質や完成に対する責任を負い、契約どおりの内容で納品がなされなければ報酬が得られないのが一般的です。
ソフトウェア開発、デザイン制作、原稿作成、建設工事などが該当します。
特定の業務の遂行を目的とする「準委任契約」
成果物の納品ではなく、業務の遂行自体を目的とし、それに対して報酬が支払われる契約です。受託者は、適切に業務を遂行する義務を負いますが、成果を約束するものではありません。
保守・管理業務やコールセンター業務、事務代行などが該当します。
法律行為を代行する「委任契約」
準委任契約と似ていますが、「法的行為を代行する」のが委任契約です。
具体例としては、不動産の売買契約や登記手続きの代行、訴訟の代理対応など、弁護士や司法書士、行政書士、税理士など法律に関わる専門家が受託する場合が多い契約です。
業務委託契約書の記載事項例
業務委託契約書においては、以下のような条項を定めることが一般的です。
契約当事者の情報
誰と誰が契約を締結するのか、委託者(依頼者)と受託者(受注者)の名称をまず記載します。
業務の範囲および内容
業務の具体的な内容と範囲を記述します。業務を遂行するにあたり、「これは委託された業務の範囲内か」を判断する基準にもなりますから、明確に記載します。
なお、詳細は別紙とすることもあります。たとえば、「HP作成業務」のように抽象的に記載をしてしまうと、後日スマホ画面での表示がうまくできなかった、特定のブラウザでのみしか適切な表示がなされていないページとなっていた等問題が生じた場合に受託者に対し対応を求めることが困難になります。
契約期間/納期
請負契約の場合は納期、委任/準委任契約の場合は契約期間(契約の開始日と終了日)について定めます。
終了日を定めない継続的な契約の場合は、いったん「1年間」など期間を定め、その後は契約当事者から申し入れがない場合は自動的に延長する形を取ります。
報酬および支払条件
請負契約の場合は成果物の完成(納品)に対して、委任/準委任契約の場合は業務の遂行に対して支払われる報酬額、支払方法、支払期限などについて定めます。
納品物および納期
請負契約の場合、成果物の内容(詳細な仕様含む)、数量、納品形式、納品先、および納期などを定めます。また、納入品がある場合は当該納入品の所有権移転時期についても定めます。
業務遂行の方法
受託者が業務を遂行する際の具体的な方法や手順、必要な設備や資料の提供について記載します。別紙として仕様書を設け、当該仕様書内に記載することもあります。
秘密(機密)保持
業務を委託するにあたっては、技術情報、営業情報、個人情報など秘密(機密)情報の開示が必要になるケースが少なくありません。そこで、「何が秘密(機密)情報にあたるのか」を定義するとともに、契約中はもちろん契約終了後も、それらの情報を第三者に漏洩しない義務について定めます。
なお、個人情報を扱う場合は、別途「個人情報の取扱い」の条項を設けることもあります。
知的財産権の取り扱い
業務委託によって制作・開発された、あるいは発明されたものの知的財産権(著作権、意匠権、特許権など)は委託側、受託側どちらに帰属するのかについて明確にします。また、納品物について知的財産権の権利侵害で争いとなった場合の扱いについて、どのような場合に誰がどのように対応するのかについて明確にします。
再委託の制限
受託者が業務の一部または全部を第三者に再委託するすることを許可するか否か、また許可する場合はその条件や制限について定めます。
禁止事項
業務遂行にあたり、禁止すべき事柄について記載します。
たとえば、第三者の著作権、意匠権、特許権など知的財産権を侵害する行為や法令違反、競合企業での活動などについて禁止するケースが考えられます。
反社会的勢力の排除
業務委託契約書に限らずですが、取引において反社会的勢力を排除する条項を盛り込みます。当該条項に違反した場合、契約の解除が可能となる条件が一般的です。
契約の解除
契約を解除する場合の条件、解除の方法、解除に伴う処理(違約金の支払い、業務の引き継ぎなど)について記載します。
損害賠償
契約違反時損害が発生した場合の賠償責任についてその範囲や賠償額の上限有無等を定めます。
不可抗力・免責事項
天災や法改正、その他の不可抗力によって契約の履行が困難になった場合の対応について定めます。
準拠法および裁判管轄
契約に適用される法令および紛争が生じた場合の管轄裁判所を定めます。
契約当事者の本社所在地、または主要な事業所の所在地を管轄する裁判所を指定します。
この他にも、契約内容の変更をおこなう際の手続きや、費用負担、業務遂行に必要な保険など、業務の内容によって必要だと思われる条項を定めます。
そして、契約書の末尾には、契約日付と保管方法について記載し、委託者・受託者双方の署名・捺印(電子契約の場合は電子署名)をします。
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それぞれ必要だと思われる条項を網羅していますが、実際の取引内容によって定めるべき内容は異なります。雛形はあくまでも参考とし、取引実態に応じてカスタマイズしてご利用ください。
なお、電子契約の場合は【電子契約対応】と記載されたテンプレートをご利用ください。
業務委託契約書のテンプレート紹介
業務委託契約書に収入印紙は必要?
業務委託契約書に印紙の貼付が必要かどうか、ですが、これは契約内容によって異なります。
なお、印紙が必要な課税文書であっても、電子契約の場合は不要です。
請負に関する契約書
印紙税法において、課税対象となる文書の種類が定められていますが、「請負に関する契約書」はそのうちの第2号文書にあたり、印紙の貼付が必要になります。
つまり、ソフトウェア開発、デザイン制作、建設工事など成果物を完成させ納品する類の請負契約の場合は、業務委託契約書に印紙を貼る必要があります。
印紙の金額は契約書に記載された契約金額によって異なります。
参考:
印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
継続的取引の基本となる契約書
請負ではない、いわゆる委任/準委任契約は一般的には課税文書にはなりませんが、「継続取引の基本となる契約書」は(1)契約期間が3か月以上継続するもので、かつ、(2)契約の目的となる取引が2回以上継続して行われる場合第7号文書にあたり、課税対象となります。
つまり、委任/準委任契約であっても、3か月を超える継続的な取引で、更新の定めのある業務委託契約書(業務委託基本契約書)の場合は印紙の貼付が必要になります。
金額は、一律4000円です。
請負もしくは継続的取引のどちらでもない場合
請負ではなく、継続的取引を前提としない、あるいは継続的な取引を示す条項を含まない業務委託契約書の場合は、運送業務を委託する等一部例外はありますが、印紙を貼る必要はありません。
たとえば、イベントを実施する際、一時的に外部業者、スタッフに運営を委託する場合などが該当します。
業務委託契約書の注意ポイント
業務委託契約書を締結するにあたっては、委託する業務の内容や遂行、そして報酬の支払いについてまで、曖昧さを残さず「明確に」決めておくことが大切です。
また、委託内容・方法が、民法、下請法、知的財産関連法、独占禁止法、個人情報保護法、労働契約法などの法律に違反していれば、その契約は無効になる可能性があります。
業務委託契約書を新たに作成した場合、弁護士や行政書士、司法書士などの専門家にリーガルチェックをしてもらうことをお勧めします。
まとめ
労働人口の減少により、今後ますます雇用が厳しくなっていくことが予想されます。そうなると、業務をアウトソーシングする機会も増えていくでしょう。
業務委託を行う場合は、相手が企業であっても個人であっても、業務委託契約書を締結することによって認識に齟齬がないようにしておきましょう。
監修者情報
エニィタイム行政書士事務所 代表 中村 充(行政書士)早稲田大学商学部卒業後大手通信会社に入社、法人営業や法務業務に携わる。2009年に行政書士資格を取得し、2017年、会社設立及び契約書作成に特化した事務所を開業。弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士等各種専門家との連携体制を構築し、企業活動のバックオフィス業務すべてのことをワンストップで対応できることも強み。
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