個人事業主が締結する業務委託契約書とは?記載事項や注意点を解説
最終更新日:2024年09月12日
ただし、業務範囲や内容、納期、報酬などについて明確に記した業務委託契約書を取り交わしておかないと、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあります。サラリーマンのように後ろ盾がない個人事業主の方ほど、こうした契約上のリスクにより慎重に向き合うべきです。
本記事では、個人事業主が業務委託を受ける際に締結する業務委託契約書について詳しく解説します。記載すべき事項や、作成しない場合のリスクなどを把握して、円滑に業務委託契約を進めてください。
- 個人事業主が締結する業務委託契約書とは?
- 個人事業主と締結する業務委託契約書の記載事項
- 業務内容と範囲
- 契約期間または納期
- 報酬および支払条件
- 業務遂行にかかる費用負担
- 秘密保持義務
- 知的財産権
- 禁止事項
- 損害賠償および違約金
- 契約解除条件・手続き
- 紛争解決
- 業務委託契約書がないと個人事業主はどうなる?
- 想定以上の業務を要求される可能性がある
- 報酬金額や支払期限が守られない可能性がある
- 想定外のことで違約金・損害賠償を請求される可能性がある
- 個人事業主における業務委託契約の主な報酬の種類は3つ
- 個人事業主が業務委託契約書を確認する際のポイント
- 業務委託契約書を交わさないケースも
- まとめ
個人事業主が締結する業務委託契約書とは?
業務委託契約とは、企業が外部の企業や個人事業主に自社の業務の一部またはすべてを委託する場合に結ぶ契約です。
個人事業主が企業から業務委託を受ける際に、業務委託契約書を締結するケースがあります。業務委託契約書は、法律上発行が義務付けられた文書ではありませんが、契約者同士で業務範囲や報酬などについて行き違いが発生しないように、契約書に明文化しておくことが望ましいとされています。
なお、2024年11月1日にフリーランス保護法が施行され、書面または電磁的方法による取引条件明示義務が課されますので、仮に業務委託契約書を締結しない場合であっても、法に基づき取引条件については明示する必要があります。
個人事業主が企業と取引をする際は、次の3つの契約形態のいずれかを結ぶことが一般的です。
- 請負契約
- 委任契約(準委任契約)
- 雇用契約
このうち、請負契約および委任契約(準委任契約)は業務委託契約に含まれ、契約書を取り交わす場合は「業務委託契約書」を締結します。
これら3つの契約がどのようなものか簡単に紹介していきます。
1.請負契約@i.element_text1>
請負契約とは、業務委託契約の一種であり、「仕事の完成を目的とし、報酬は成果に対して支払われる」という契約を指します。具体的に請負契約においては、受注者は発注者が指定した期日までに成果物を納品することが求められます。たとえば、ライターの記事制作、エンジニアのアプリ制作、建築業の建設・修繕作業などです。
請負契約を締結する際は、業務委託契約書(または請負契約書)を作成するのが一般的です。なお、請負契約における契約書を電子ではなく書面で行う場合は、印紙税法上の課税文書(請負に関する契約書)に該当するため、契約金額に応じて収入印紙の貼付が必要です。
印紙税法の定めに従い、収入印紙は業務委託契約書の作成者側が負担します。契約金額ごとの印紙税額は、次の表のとおりとなっています。
契約金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載がないもの | 200円 |
参考:請負に関する契約書|国税庁
特に、建設業や製造業などで取引金額が大きくなる場合は、数万円以上の収入印紙が必要となるケースもあります。電子契約で業務委託契約書を締結する場合は、収入印紙は不要なため、電子契約の導入が増えています。
2.委任契約(準委任契約)@i.element_text1>
委任契約および準委任契約も、業務委託契約の一種です。委任契約(準委任契約)は、成果物の納品によって報酬が発生する請負契約とは異なり、「業務の遂行自体を目的とし、報酬は一定の行為に対して支払われる」という契約を指します。
そのため、具体的な成果が必ずしも発生するとは限らない種類の業務委託契約は、委任契約(準委任契約)に含まれるといえます。また、委任契約と準委任契約の違いは、委託される業務内容によります。委任契約については民法第643条によって次のように定義されています。
つまり、委任契約は、弁護士や司法書士など法的手続きを専門的に扱う士業に訴訟代理業務を委託する際等に用いられる名称です。それに対して、医師の診療や、コンサルタント業など、法的手続き以外の事務処理業務を委託する場合は、準委任契約となります。
3.雇用契約@i.element_text1>
雇用契約は、業務委託契約とは異なり、企業などの組織または個人事業主が雇用主となり、労働者を雇う際に用いられる契約です。労働者は、雇用主の指示のもと業務を遂行することが求められ、その対価として賃金が支払われます。
雇用契約と業務委託契約の違いは、業務を依頼する側と業務を遂行する側の立場の違いにあります。雇用契約においては、雇用者と労働者の間には主従関係がありますが、立場の弱い労働者の搾取を防ぐために労働契約法や労働基準法によって最低限の権利が守られています。
その一方で、業務委託契約においては、発注者と受注者に主従関係はなく、受注者に労働契約法や労働基準法などは適用されません。
個人事業主と締結する業務委託契約書の記載事項
企業と個人事業主が業務委託契約書を締結する際は、次の記載事項を盛り込みましょう。
- 業務内容と範囲
- 契約期間または納期
- 報酬および支払条件
- 業務遂行にかかる費用負担
- 秘密保持義務
- 知的財産権
- 禁止事項
- 損害賠償および違約金
- 契約解除条件・手続き
- 紛争解決
それぞれ、具体的な記載例とともに簡単に紹介していきます。
業務内容と範囲
業務委託契約書において、業務内容と範囲を明確に記載することは非常に重要です。具体的には、次のように記載しましょう。
本契約において委託する業務内容は以下の通りとする。
(1)ウェブサイトのデザインおよび開発業務を担当する。具体的には、ウェブページのデザイン、コーディング、テスト、および納品を含む。
(2)(1)の関連業務および付随業務の一切すべてを含む。
(3)その他、甲乙間で別途合意した業務
このように、業務の内容と範囲を詳細に定義すれば、業務範囲の解釈違いに伴う後々のトラブルを防ぎやすくなります。また、業務範囲を明確にすることで、追加業務や変更が発生した際に、追加契約や改訂契約を検討する基準にもなります。
業務内容を明確にしておくことで、双方の行き違いを防ぎ、円滑に業務委託を進められるでしょう。
契約期間または納期
業務委託契約書には、契約期間や納期についても具体的に記載しておくとトラブルを防げます。
本契約は契約締結日から1年間有効とする。
ただし、期間満了の1か月前までに甲乙いずれも相手方に対し更新拒否の通知を行わない場合、本契約はさらに1年間延長され、以後も同様とする。
また、甲(受注者)は、乙(発注者)が別途指定する期日までに、指定された方法にて本規約で定める著作物を引き渡すこととする。
契約期間や納期を明確に記載することで、双方のスケジュール管理がしやすくなり、契約の履行状況を確認しやすくなります。具体的な期間や納期を設定することで、個人事業主は業務の計画を立てやすくなり、発注者も納品のタイミングを把握できます。
また、契約期間中に発生する業務量の調整や、途中での契約変更についても話し合う際の基準となり、業務の進行がスムーズになるでしょう。これにより、双方が安心して業務を進めることができ、契約の透明性も向上します。
加えて、契約更新については、双方いずれかが更新拒否の通知を行わない限り延長されることが多いです。契約更新の有無や条件についても明文化しておくとトラブル防止に役立ちます。
報酬および支払条件
業務委託契約書には、報酬および支払い条件についても詳細に記載しましょう。
報酬は著作物一件あたり5万円(税込)とする。なお、著作物譲渡にかかる対価も本報酬に含まれるものとする。
乙(発注者)は、甲(受注者)の著作物の納品日の翌月末までに銀行振込にて支払うものとする。振込手数料は乙が負担する。
※フリーランス保護法が施行された後は、フリーランスとの取引において支払い日は、納品日(またはフリーランスが役務を提供した日)から60日以内でかつできる限り短い期間内が原則となります。ただし、元委託者から受けた業務をフリーランスに再委託した場合、元委託業務の支払期日から起算して30日以内でかつできる限り短い期間内で支払日を定めることが例外としてできます。
業務委託契約において、報酬および支払い条件を明確に記載することは、報酬に関するトラブルを防ぐうえで非常に重要です。
具体的な金額や支払いのタイミングを明示すると、個人事業主は収入の計画が立てやすくなり、発注者も予算管理がしやすくなるなど、双方にとって大きなメリットがあります。また、報酬を分割で支払う場合は、その回数や各回の支払額、支払い期日についても記載しておきましょう。
業務遂行にかかる費用負担
業務遂行上で費用が発生するケースもあり、その際の費用負担についても明記しておくのがおすすめです。
乙(受注者)が業務遂行上で発生した各種費用のうち、交通費および宿泊費は乙が負担するものとし、素材購入費は甲が負担する。
業務委託契約の中でも、特に製造業や建設業においては、業務遂行において交通費や宿泊費などさまざまな費用が発生するケースが多いです。費用負担を明確にすることで、誤解やトラブルを防げます。
必要に応じて、費用の精算方法やタイミングについても記載することで、費用に関する透明性が向上し、信頼関係の構築にも役立ちます。
秘密保持義務
業務委託契約書においては、秘密保持義務に関する記載も重要です。
甲(受注者)は、業務遂行中に知り得た乙(発注者)の秘密情報を第三者に漏洩してはならない。また、本契約終了後も秘密保持義務は継続するものとする。
秘密保持義務によって、受注者である個人事業主などが業務遂行中に知り得た秘密情報の取り扱いについて規定し、情報漏洩により企業の利益を損なうリスクを低減します。
秘密情報の定義や秘密保持義務の期間、違反時の対応について詳細に記載することで、発注者は安心して情報を共有できます。また、秘密保持義務に関する規定があることによって、個人事業主も情報の取り扱いに注意を払い、信頼関係を維持することができるでしょう。
知的財産権
業務委託契約においては、受注者が制作した著作物に関する知的財産権の帰属先についても記載する必要があります。
1.甲(受注者)は、乙(発注者)に対し、本著作物等を乙に納入したときをもって、本著作物等に関する著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条に定める権利を含む。)を譲渡する。
2.甲は、本著作物等に関し、著作者人格権を行使しない。
著作物については、契約書上何も記載がなければ当該著作物を創作した当事者に著作権が帰属します。ただ、上記のように、業務委託契約において記載をした場合は当該記載条件に従うことになります。知的財産権に関する条項は、業務遂行中に作成された成果物の権利帰属を明確にし、後々の権利に関するトラブルを防ぎます。
成果物の権利帰属や使用許可について具体的に記載することで、発注者は安心して成果物を使用でき、また、個人事業主も適切な範囲で成果物を利用できます。これにより、双方の権利が保護され、業務の透明性が向上します。
※フリーランス保護法が施行された後は、フリーランスに発生した著作権を無償で譲渡させる行為は、同法に定める禁止行為の一つ不当な経済上の利益の提供に該当する可能性がありますので譲渡するにあたってはその対価の扱いにつき必ず定めてください。
なお、著作権譲渡の対価については、契約金額に含まれるものとする。
禁止事項
業務上、発注者にとって不利益となり得る行為に関して禁止事項を定めるケースもあります。
甲(受注者)は、本業務以外の副業により乙(発注者)の利益を害する行為を行ってはならない。
また、甲が、自ら又は第三者から受託して本業務と抵触する業務を行う場合には、事前に乙の書面による承諾を得るものとする。
禁止事項に関する条項は、業務遂行中に個人事業主が行ってはならない行為を明示し、業務遂行中の不適切な行為を防ぎます。禁止事項として代表的なものは、競業他社との契約禁止(競業避止)や、第三者への再委託禁止などが挙げられます。
損害賠償および違約金
業務委託契約書には、損害賠償および違約金に関する規定も記載しておきましょう。
甲(受注者)が本契約の規定に違反した場合、乙(発注者)は現実に発生した直接かつ通常の損害に対する賠償を請求することができる。また、金額は契約金額を上限とする。
損害賠償および違約金に関する条項の記載によって、契約当事者のいずれか一方が契約に反する行為を行った際の対応を迅速にできます。損害賠償額の具体的な金額を明示することで、違反時の対応が明確になり、個人事業主も契約遵守の重要性を認識できるでしょう。これにより、契約違反のリスクが軽減され、契約の信頼性が向上します。
契約解除条件・手続き
原則として、業務委託契約は受注者が納品を完了又は事務が完了するまで続きます。しかし、いずれかの当事者が規約に違反する行為などをした場合には、契約を途中で解除することもあり得ます。
・甲(受注者)が本契約に定められた条項に違反した場合、前条の規定に拘わらず、乙(発注者)は、1か月以上の予告期間をもって甲に対して書面で通告することにより、本契約を解約することができる。また、不可抗力により業務遂行が困難になった場合も同様とする。
・乙が前項に基づく中途解約を行った場合、当該中途解約の日が属する月に係る業務委託報酬は、その全額が発生するものとする。
通常、発注側は、受注者に対して損害賠償を支払うことにより、契約中であっても中途解約できる決まりになっています(民法第641条、民法第651条)。業務遂行途中で、受注者が契約違反をした場合には発注者の申し出により契約解除をできるように条項を定めておくのが一般的です。
なお、受注者からの中途解約は、発注者が破産開始手続きの開始決定を受けた場合のみに民法上限定されています。(民法第642条)そのため、もし受注側からも自由に解除できる契約にしたい場合は、その旨の規定も設けるべきといえます。
中途解約時の報酬についても、どの程度の割合がどのように支払われるかを明確にしておきましょう。
※フリーランス保護法が施行された後は、6か月以上の契約期間の契約を解除する場合や更新しない場合少なくとも30日前までに書面や電磁的方法で予告しなければなりません。また、予告日から契約満了日までの間にフリーランス側から解除理由が請求された場合、書面や電磁的方法にて遅滞なく開示する必要があります。
紛争解決
業務委託においては、報酬や契約内容について当事者同士でトラブルが生じることもあります。当事者間での争いが裁判に発展した際に、一方にとってのみ有利にならないように、お互いの合意のもと管轄の裁判所を決めておくケースが多いです(合意管轄)。
本契約に関する紛争が発生した場合、まず当事者間で誠実に協議し解決を図る。それでも解決しない場合は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
紛争解決の方法や管轄裁判所を明示することで、発生した問題を迅速に解決するための手段が確立されます。また、国家間での業務委託契約を締結する場合などは、紛争解決の準拠法などについても記しておくと安心でしょう。
業務委託契約書がないと個人事業主はどうなる?
業務委託契約を受注する個人事業主は、法律上は発注者である企業と対等な関係です。しかし、公平かつ公正な業務委託契約書を作成しておかないと、次のような様々なリスクに晒される恐れがあります。
- 想定以上の業務を要求される可能性がある
- 報酬金額や支払期限が守られない可能性がある
- 想定外のことで違約金・損害賠償を請求される可能性がある
それぞれ簡単に紹介します。
想定以上の業務を要求される可能性がある
業務委託契約書を作成しない場合、業務の範囲や内容が曖昧になり、受注者である個人事業主が当初の想定を超える業務を要求されるリスクがあります。
具体的な業務内容が明文化されていないと、発注者側から追加の作業を要求しやすくなってしまいます。たとえば、ライターとして構成作成から記事の納品までを受注したにもかかわらず、ホームページへの公開作業も求められる、などが考えられます。
また、契約書によって成果物に関する明確な基準が定められていないと、追加で何度も修正作業を求められるというケースもあるでしょう。このような状況では、個人事業主が追加作業を断ることが難しく、結果として業務負担が増大し、他の業務に支障をきたす可能性もあります。さらには、追加作業に対する報酬が明確でないため、無償で行わなければならないケースも発生するでしょう。
業務の範囲や内容、報酬に関する取り決めなどについて明確に記載した業務委託契約書があれば、想定外の業務を要求されるリスクを防げます。また、追加作業に関する取り決めを事前に合意できるでしょう。
なお、契約書を締結しない場合であっても、フリーランス保護法が施行された後は、給付内容や給付受領日、給付受領場所につき取引条件明示義務が相手方に課されますので必ず確認してください。
報酬金額や支払期限が守られない可能性がある
業務委託契約書がない場合、報酬金額や支払期限が口頭でのやりとりや曖昧な取り決めに頼ることとなり、支払いに関するトラブルが発生しやすくなります。
具体的な金額や支払い方法が明記されている契約書を作成していないと、発注者が約束した金額を支払わなかったり、支払いが遅延したりするリスクが高まります。
また、万が一発注者からの支払いが滞ったり、契約通りの報酬が支払われなかったりした場合、契約書があれば法的措置をとりやすくなります。しかし、契約書がない場合は契約に関する証拠が乏しいことから、個人事業主が不利な立場になる可能性も大いに考えられるでしょう。
業務委託契約書を作成しておけば、報酬金額、支払期限、支払方法などを明確に定義できるため、報酬に関するトラブルを防ぎつつ、個人事業主も安定したサイクルで収入を得られるでしょう。
なお、契約書を締結しない場合であっても、フリーランス保護法が施行された後は、報酬額や支払期日につき取引条件明示義務が相手方に課されますので必ず確認してください。
想定外のことで違約金・損害賠償を請求される可能性がある
業務委託契約書を作成していない場合、違約金や損害賠償に関する取り決めが曖昧になり、個人事業主が想定外の事態で多額の違約金や損害賠償を請求されるリスクがあります。
たとえば、自然災害などの不可抗力によって、受注者の業務の存続が困難である状況に陥った場合であっても、受注者が一方的に契約を解除したと捉えられ、損害賠償を請求される可能性があります。また、業務遂行中に発生したトラブルやミスが原因で発注者に損害が生じた場合、契約書がないと責任の所在が不明確になり、個人事業主が全責任を負うように迫られる可能性があります。
業務委託契約のなかでも、委任契約(または準委任契約)は受注者の資格や技量が重視されるため、委任者の許諾を得たときまたはやむを得ない事由があるとき以外は、契約書上での特別な取り決めがない限り再委託が禁止されています(民法第644条の2)。
受注者が、再委託が禁止されていると知らずに第三者に業務の一部またはすべてを委託してしまい、情報漏洩などが起きた際には発注者側から損害賠償請求を受ける可能性もあるでしょう。
このように、想定外の場面で違約金や損害賠償を背負ってしまわないためにも、お互いが合意のもとで業務委託契約書を作成しておくべきです。
個人事業主における業務委託契約の主な報酬の種類は3つ
個人事業主が、企業と業務委託契約を締結する際に、業務の対価として受け取るお金は「給与」ではなく「報酬」と呼ばれます。業務委託契約の際は、正社員やアルバイトのように、時給や月給・残業代などで給与が支払われるわけではなく、契約上決められた金額の報酬が、決められた時期に支払われます。
そのため、業務委託契約の際は、報酬の支払い基準や支払い時期などについてもしっかり合意をとっておく必要があるでしょう。業務委託の報酬形態は、主に「固定報酬型」「成果報酬型」「複合報酬型」の3種類に分けられます。
概要 | 具体例 | |
---|---|---|
固定報酬型 | ・毎月一定の固定額を業務委託先に支払う ・業務の成果と関係なく報酬が固定されているため、納品物によって報酬が発生する請負契約ではなく、資格や技術を用いた管理業務などの委託契約(準委託契約)で採用されるケースが多い | ・不動産管理業務 ・清掃業務 ・弁護士の顧問業務 ・SEO対策業務 ・システム保守やメンテナンス業務 ・システムエンジニアリングサービス業務 ・コールセンター業務 など |
成果報酬型 | ・業務委託先があげた成果に応じた報酬を支払う ・「獲得契約1件につき●円」「売上高の●パーセント」「納品物1件につき●円」「文字数1文字につき●円」など、基準を満たした納品物ごとに単価が定められているケースが多い | ・営業代行 ・Webライティング ・広告代理店 ・店舗運営代行 ・動画編集・投稿業務 など |
複合報酬型 | ・固定報酬型と成果報酬型を組み合わせた報酬形態 ・報酬のメインは成功報酬部分(成果報酬型)であり、営業活動時の必要経費などが最低保障として支払われる(固定報酬型)ケースが多い | ・コンサルティング業務 ・弁護士・税理士など士業への業務委託 ・SEO対策業務 ・テレアポなどのインサイドセールス業務 など |
固定報酬(定額)型/成果報酬型 業務委託契約書テンプレート
個人事業主が業務委託契約書を確認する際のポイント
個人事業主が業務委託契約を交わす際は、自分にとって不利な契約内容となっていないかよく確認する必要があります。具体的には、業務委託契約書に記載された各項目について、次の点を確認しましょう。
項目名 | 確認ポイント |
---|---|
業務内容と範囲 | ・業務内容が具体的に記載されているか ・業務範囲が明確に定義されているか |
契約期間または納期・納品場所 | ・契約開始日と終了日が明示されているか ・納期や納品場所が具体的に設定されているか ・契約更新について明示されているか |
報酬および支払い条件 | ・報酬金額が明確に記載されているか ・支払方法および期限が明確に定義されているか ・(著作権を譲渡する場合)報酬金額に譲渡対価が含まれているか |
業務遂行にかかる費用負担 | ・どの費用を誰が負担するか明示されているか ・費用精算の方法とタイミングが記載されているか |
秘密保持義務 | ・秘密保持の対象となる情報が明確に定義されているか ・秘密保持義務の期間が記載されているか |
知的財産権 | ・業務遂行中に作成された成果物の権利の帰属先が明示されているか ・知的財産権の使用範囲や条件が明確に定義されているか |
禁止事項 | ・具体的な禁止事項が明確に定義されているか ・禁止事項に違反した場合の対応が記載されているか |
損害賠償および違約金 | ・損害賠償の範囲と金額が明示されているか ・違約金に関する取り決めが具体的に記載されているか |
契約解除条件・手続き | ・契約解除の条件が明確に定義されているか ・契約解除の手続き方法が明示されているか ・フリーランス保護法上の規定に従っているか |
紛争解決 | ・契約当事者間で紛争が発生した場合の解決方法が記載されているか ・管轄裁判所が明示されているか |
これらのポイントを押さえておけば、個人事業主は業務委託契約書の内容を適切に把握し、トラブルを未然に防ぐことができます。
業務委託契約書を交わさないケースも
個人事業主が業務委託契約を締結する際、業務委託契約書を交わさないケースもあります。
法律上、業務委託契約は口頭やメールだけでも成立するため、知人の紹介で業務委託を受ける場合などでは、業務委託契約書を作成してもらえない可能性もあるでしょう。
また、初回や単発での受注時は報酬や納期などについて簡単にルールを記載した覚書のみを発注先から発行してもらい、継続契約となった場合に改めて業務委託契約書を作成するケースもあります。
その一方で、継続契約となった場合でも発注先から契約書を作成してもらえず、受注者も契約書締結について切り出しづらく、そのまま契約を続けてしまうこともあるでしょう。
業務委託契約において、契約書は必須ではありません。しかし、想定外のトラブルに巻き込まれるリスクを防ぐためにも、適切なタイミングおよび方法で契約書を作成するのがおすすめです。
まとめ
本記事では、個人事業主が企業と業務委託契約を締結する際に作成する「業務委託契約書」について紹介しました。業務委託契約書は、法律上必須ではありません。
しかし、業務の範囲や報酬の支払い基準などについてお互いが同意した契約書がない場合、業務の受注者である個人事業主が不利な立場に立たされることも多いです。本記事で紹介した記載事項や注意点などを参考にし、適切な契約書を作成して円滑に業務を進めてください。
監修者情報
エニィタイム行政書士事務所 代表 中村 充(行政書士)早稲田大学商学部卒業後大手通信会社に入社、法人営業や法務業務に携わる。2009年に行政書士資格を取得し、2017年、会社設立及び契約書作成に特化した事務所を開業。弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士等各種専門家との連携体制を構築し、企業活動のバックオフィス業務すべてのことをワンストップで対応できることも強み。
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業務委託契約書 のテンプレート一覧へ
業務委託契約書は、業務を外部に委託する場合に、委託内容や期日・契約期間、報酬、秘密保持などの契約内容を明記し、委託者と受託者の間で取り交わすものです。
業務内容や取引条件を明文化することにより、双方が共通認識を持ち、トラブルを防止することができます。
業務委託契約には「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3タイプがあります(準委任契約は委任契約の一種ですので「委任契約」と記載されることもあります)。
ソフトウェア開発やデザイン制作、建設工事など、仕事の完成を目的とし、成果物の完成・引き渡しをもって報酬が支払われるものを「請負契約」と言います。
一方、業務の遂行を目的とし、成果物ではなく業務の遂行そのものに対して報酬が支払われるものを「委任契約」と言います。そのうち、訴訟や契約交渉など法律行為を委任する場合は「委任契約」、保守・管理業務や事務処理など法律行為以外の業務を委任する場合は「準委任契約」と言います。
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