産後パパ育休(出生時育児休業)とは?労務担当が把握すべき手続き
最終更新日:2024年09月02日
主に男性が利用する制度として「産後パパ育休」と呼ばれています。
2022年4月から段階的に施行され、企業側にも制度周知や環境構築が義務化されました。
本記事では、産後パパ育休の概要や制度改正の経緯、労務担当者向けに休業中の給付金や社会保険料免除手続きの方法、企業側が産後パパ育休に対してすべき対応を解説します。
産後パパ育休(出生時育児休業)とは?
産後パパ育休制度は、子供が産まれてから8週間以内に取得できる休業で、休業開始の2週間前までの申請が必要です。
2022年4月より、改正育児・介護休業法の一環として、制度がスタートしました。
条件を満たせば、休業中に出生時育児休業給付金を受け取れます。
この制度には、男性の育児参加を促進する狙いがあります。
企業側は、制度の周知や各種給付金の申請方法を確立する必要があるため、制度の趣旨や概要について理解しておきましょう。
施行日 | 2022年10月1日 |
対象期間 | 子の出生から8週間以内 |
取得可能日数 | 最大4週間 |
申し出期間 | 休業開始日の2週間前まで |
分割取得 | 2回分割して取得可能 |
休業中の就労 | 労使協定の締結をしている場合は、合意した範囲で就業可能 |
取得資格 | ■有期雇用労働者の場合 ・1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない ■労使協定を締結している場合 ・入社1年未満でない ・申し出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかでない ・1週間の所定労働日数が2日以下でない |
所得保障 | 出生時育児休業給付金 1日あたり休業開始時点の賃金の67%を支給 |
制度が改正された経緯
産後パパ育休(出生時育児休業)は2022年10月に施行されました。
企業側の受け入れ準備も考慮して、3段階で施行されることが発表されています。
制度が施行された理由は以下の4つです。
●女性の離職率の高さ
●男性の育児休暇取得改善
●子育ての分担の必要性
●パパ休暇(※廃止)要件緩和の必要性
育休は女性が取るものという意識が強く、男性が育児休暇を取得することは困難でした。厚生労働省の令和3年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は18.9%です。女性が育児休暇を8割以上取得している状況と比較すると、圧倒的に男性の取得率は低くなっています。
また、女性の出産をきっかけとした離職率の高さも問題視されています。「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び 出産・育児と女性の就業状況について によると、第1子出産を機に離職する女性の割合は46.9%です。
女性の社会進出の観点、また共働き世帯の増加に伴い、女性だけが子育てする時代ではなくなりました。子育てを女性任せにせずに、分担する必要性がある点をふまえて、政府は休業制度を改正しています。
【参考】厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」
産後パパ育休の特徴
産後パパ育休制度の特徴を解説します。
制度は2022年4月から段階的に施行されており、以下のような流れになっています。まだ対応できていない企業は、早急に準備しなければなりません。
施行年月日 | 内容 |
2022年4月1日〜 | ・育児休業を取得しやすい雇用環境の整備 ・妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした従業員に対する個別の周知・意向確認の措置 ・有期雇用従業員の育児・介護休業取得要件の緩和 |
2022年10月1日〜 | ・産後パパ育休(出生時育児休業)の創設 ・育児休業の分割取得 |
2023年4月1日〜 | ・従業員1,000人超の企業は、授業員の育児休業取得状況を年に1回公表することを義務化 |
産後パパ育休の特徴は、大きく分けて以下の4つとなります。
●育児休業・産後パパ育休の分割取得
●休業中でも就業可能
●パパ休暇は廃止
●育児休業制度とは別に取得可能
育児休業の分割取得
育児・介護休業法改正により、産後パパ育休・育児休業は分割して取得できるようになりました。従来の制度では、分割ができなかったため、夫婦で協力して育児休業を取得することができませんでした。
しかし、新制度では通常の育児休業を含めて、1歳までの間については分割して(最大では)4回取得できるため、より柔軟に休業しやすくなっています。
また、保育園が見つからないなどの事情があれば、1歳以降の育児休業延長の要件が緩和されました。従来は1歳または1歳半の時点と限定されており、休業開始日を選べない点が問題でしたが、要件緩和により自由に休業開始の日を決められます。
休業中でも就業可能
また、休業中の就労が可能になった点もポイントです。従来の制度では休業中の就業は不可となっていました。しかし、労使協定を結んでいる場合に限定されますが、従業員の合意において就業が可能となります。
なお就業可能日には上限があり、以下の条件を満たした場合に限られる点に注意しましょう。
●休業開始・終了予定日を就業日とする場合は当該日の所定労働時間数未満であること
たとえば所定労働時間が1日8時間、週5日の従業員が2週間の休業を取得し、休業期間中の所定労働日が10日だったとします。その場合、所定労働時間は80時間となるため、就業日数上限は5日、就業時間の上限は40時間です。
また、休業を開始する日・終了予定日の就業は8時間未満にならなければなりません。
休業期間中の就労を可能とすることで、男性の休業取得率が低い原因である「業務を長く離れることが難しい」問題を解決しています。
育児休業制度とは別に取得可能
産後パパ育休は、育児休業制度とは別に取得できます。
産後パパ育休と育児休業制度を活用すれば、夫婦で交代して休業できます。子供の出生に合わせて、母親が産休を取得し、出生から8週間後以降は育児休業制度を利用可能です。
育児休業は夫婦共に分割して2回取得できるため、夫婦で交代して職場復帰のタイミングを相談できます。
労務担当者が把握すべき産後パパ育休制度手続き方法
企業の労務担当者が把握しておくべき、産後パパ育休制度の手続きについて解説します。
従業員がより産後パパ育休を取得しやすいよう、企業側も手続きを把握し、周知に努めましょう。
産後パパ育休取得の手続き
産後パパ育休取得の手続きは、以下の流れでおこないます。
1.従業員から申請書提出
2.引き継ぎやフォロー体制の構築
3.休業開始
1の申請書フォーマットは会社側で用意する必要があります
書式を自社で作成する際は、以下の項目を必ず記載するように作りましょう。
●産後パパ育休を取得する従業員の氏名
●申請に係る子供の氏名・生年月日・続柄
●休業開始予定日・終了予定日
申請は書面でおこなう必要があるため、企業側でもテンプレートを利用するなどして書式を用意してください。
出生時育児休業給付金の手続き
産後パパ育休制度のほかに、労務担当者は給付金の手続きについても把握しておきましょう。
産後パパ育休取得時に申請できる「出生時育児休業給付金」は、雇用保険による、育児休業中の所得保障制度です。
支給金額は休業開始時点の賃金の67%と定められています。
※休業期間中を対象に支払われた賃金が「休業開始日賃金日額×休業日数」の13%以下である場合
出生時育児休業給付金の手続きの流れは、以下の通りです。
1.受給資格確認表・出生時支給申請書の提出
2.初回支給申請手続き
出生時育児休業給付金の支給を受けるために、事業者が受給資格確認と出生時育児休業給付金支給申請を同時に手続きしなければなりません。
申請期間は出生から8週間経過した翌日から、2か月後の月末までです。その際に申請書類と合わせて添付する書類をまとめます。
●出勤簿またはタイムカード
●労働者名簿
●育児休業申出書(育児休業の開始日・終了日がわかる書類)
●母子健康手帳・診断書など出生日が確認できる書類の写し
●マイナンバーの控え ※申請書の枠内に記載すれば添付は不要
出生時育児休業給付金の支給要件は以下の通りです。
●産後パパ育休の取得日数を28日とした際に、休業中の就業日数が10日以内であること(10日を超える場合は80時間以内)
3月1日に出生・産後パパ育休を取得した場合、4月27日〜6月30日までに申請が必要となります。
支給金額は【休業開始日の賃金日額×休業日数×67%】で計算します。支給には上限が設けられており、2023年5月時点での上限額は1日15,190円を超えてはいけません。
ただし、上限額は毎年8月1日に変更されるため、2023年8月1日以降は上限額が引き上げになる可能性があります。労務担当者は、支給額の上限変更がないか逐次チェックしましょう。
社会保険料免除手続き
産後パパ育児休業中は、休業期間中の月給・賞与についての社会保険料が免除されます。
社会保険には健康保険、厚生年金保険が含まれます。
社会保険料の免除要件は以下の通りです。
●社会保険料起算月の末日が休業期間中
●同一月内で育児休業を14日以上取得している場合
ただし、賞与についての社会保険料の免除は、1か月超の育児休業を取得した場合に限ります。
社会保険 | 健康保険 厚生年金保険 |
提出書類 | ・健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書 |
提出先 | 年金事務所 健康保険組合 |
提出時期 | 被保険者が産後パパ育休を取得したとき (休業期間中または休業終了日から起算して1か月以内) |
【参考】日本年金機構「産休・育休等関係届書」
社会保険料免除を受けるためには、健康保険・厚生年金保険事務所に対して所定の申請が必要です。また、厚生年金基金についても、掛け金免除の申出書を事業者が提出しなければなりません。
提出時期は産休を取得したタイミング、または休業期間終了日から起算して1か月以内です。
産後パパ育休制度改正後に企業が対応すべき4つのこと
産後パパ育休制度の改正に伴い、企業側も体制の確立が求められます。
制度改正後は、企業はより制度を利用しやすい環境を構築する義務があるためです。
具体的に企業がなにをすべきか解説します。
従業員への制度周知
2022年4月1日から、すべての事業者は産後パパ育成制度について社内に研修などをおこない、周知しなければなりません。
制度に対しての知識をつけてもらい、適切に休業を利用してもらうためです。
従業員は休業中の給与や業務を長期間離れることに不安をもっています。しかし、産後パパ育休制度では分割取得が可能であり、また給付金が受け取れることなどを説明し、制度への理解を促しましょう。
社内規則の改定
産後パパ育休制度に合わせて社内規則の改定も必要です。原則産後パパ育休中は就業不可ですが、労使協定を結んでいる場合のみ就業させられます。
労使協定を結んでいる場合は就業日数や申し出の期間などを、社内規則で定めておく必要があるでしょう。
育児・介護休業のテンプレート紹介
相談窓口の設置
産後パパ育休制度の研修などをおこなっても、すぐに取得率が上がるわけではありません。取得率を上げるために、従業員に対してのフォローが必要です。
相談窓口を設けて申請手続きの説明や流れを説明できるようにし、給付金の金額について相談できる窓口を設けましょう。
また、あってはならないことですが、パタハラ(パタニティハラスメント)についての対策も必要です。
パタハラとは、男性が育児休業を取得した時、または時短勤務を選んだ際に起こる、不当な扱いや同僚からの嫌がらせを意味します。
万が一産後パパ育休制度を利用した従業員が不当な扱いを受けた場合に、すぐに報告できるレポートラインも作成しておきましょう。
育休取得者のフォロー体制の確立
育休取得者に対してのフォロー体制も必要です。
産後パパ育休を取得した場合、担当業務の引き継ぎも必要となります。
また同僚やチーム員の理解も必要です。
同僚側の立場にたてば、「休業者が出れば業務負担が増える」と不満をもつことは当然でしょう。企業側として休業中の業務負荷の軽減策を考案したり短期で人員を雇用したりなどフォローする旨を伝えれば、同僚の理解も得やすくなります。
以上のように、産後パパ育休を利用する従業員だけでなく、同僚に向けてもフォロー体制を構築してください。
まとめ
育児休業制度が2022年4月1日から改正され、段階的に施行されています。
制度利用率を上げるために、企業側も制度の周知や申請書の準備、手続き窓口の準備が必要です。
産後パパ育休が普及すれば、企業側も離職率を下げ、出産を機に人材が流出する問題を防げます。
記事で紹介した手続き方法などを参考にしてフォロー体制を構築し、産後パパ育休を利用しやすい環境を構築しましょう。
監修者情報
みのだ社会保険労務士事務所 代表 蓑田真吾(社会保険労務士)大学卒業後、鉄鋼関連の企業に総合職として就職し、その後医療機関人事労務部門に転職。約13年間人事労務部門で従業員約800名、新規採用者1,000名、退職者600名の労務、社会保険の相談対応にあたる。社労士資格取得後にみのだ社会保険労務士事務所を開設し、独立。東京都社会保険労務士会所属(登録番号 第13190545号)。
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