インボイスの経理処理における注意点

最終更新日:2023年11月30日

インボイスの経理処理における注意点
インボイス制度の開始まで半年を切り、実務上の具体的な処理方法を検討する段階に来ています。そこで今回の記事では、インボイスを経理処理する際に注意すべき点について解説します。
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経理処理に必要な消費税の基礎知識

税区分が必要な理由

消費税を納税している事業者の方が会計ソフトなどで仕訳を入力する際には
「税区分」(※)
といわれる消費税に関するコードを入力します。
※会計ソフトによって呼称が違うケースもありますが、消費税に関する区分を示すものという意味で理解してください。

「税区分」という言葉を聞いて、
「消費税は納税しているけれど、そんな区分は自分で入力したことがない」
と思った方もいるかもしれません。

会計ソフトでは勘定科目ごとに標準の「税区分」が設定されていることが多く、仕訳入力時にその設定に従って自動的に「税区分」が入力されます。
税理士に申告書の作成を依頼している方であれば、税理士事務所の方が「税区分」が正しいかチェックしてくれているはずです。
この「税区分」ですが、なぜこのようなコードが必要となるのでしょうか?その理由は消費税の申告書を作成するのに必要だからです。

消費税の申告書を作成するには、1年間の取引についてひとつずつ
●消費税の対象となる取引かどうか
●対象となる取引であれば税率は何%か
といった判定を行う必要があります。

こうした作業を1年分まとめて行うのは会計のプロであっても大変な作業です。そのため仕訳を入力する際に都度判断をして「税区分」を付与します。
仕訳ごとに付与した「税区分」を元に会計ソフトが集計を行い、消費税の申告書が作成されるのです。

経理処理に使用する主な税区分

この「税区分」ですが、消費税の計算方法によっては何十個もある中から選ばなければならないこともありますが、今回は基本的なものを以下の表にまとめました。

売上などの収入に
付与するもの
仕入・経費、固定資産の
購入などに付与するもの
本則課税・課税売上10%
・課税売上8%(軽減税率)
・非課税売上・・・受取利息や居住用家賃など
・対象外
・課税仕入10%
・課税仕入8%(軽減税率)
・対象外(※)
簡易課税・課税売上第○種
「○」には一から六の数字が入ります。
税区分は不要
※非課税仕入という税区分もありますが、消費税の計算上は対象外と扱いが同じため今回は割愛します。

消費税の計算方法には「本則課税」と「簡易課税」があります。どちらの計算方法を適用しているかにより使用する税区分は変わります。

【本則課税と簡易課税の違いについては、以下の記事をご参照ください。】
インボイスを正しく理解するための簡易課税制度入門

本則課税の場合は、売上や仕入などにかかわらずすべての取引について消費税の対象となるか判定を行い、「税区分」を付与する必要があります。

一方、簡易課税の場合は、売上などの収入がどの事業区分に該当するか把握できれば消費税額を計算できるため、仕入や経費などについては「税区分」がなくても問題ありません。
仕入などについて「税区分」ごとに集計する必要がないことが「簡易」課税と呼ばれる理由です。

なお、会計ソフトによっては「税区分」の記載方法が異なる場合がありますので、その点は会計ソフトのマニュアル等でご確認ください。

インボイス制度により経理処理はどう変わる?

ここまで説明した内容を元に、インボイス制度が始まると経理処理がどのように変わるのか確認しておきましょう。

本則課税の場合

売上などの収入についての税区分は、インボイスを発行しているかどうかにかかわらず従来と変わりません。

消費税の納税義務者の場合、売上などが
・課税売上10%
・課税売上8%(軽減税率)
・非課税売上
・対象外
のどれに該当するか判断して仕訳処理の中で税区分を付与します。

大きく変わるのは仕入や経費などを処理する際の「税区分」です。

インボイスの有無により「仕入税額控除」ができるかどうかが変わります。そのためインボイス制度が始まると消費税の対象となる仕入や経費などについては
・インボイス
・インボイス以外

に分けて集計する必要が生じます。

さらにインボイス制度開始後、受け取った請求書などがインボイスでなくても
・最初の3年間は80%
・その後の3年間は50%

を控除できる制度があります。

この制度に対応した集計を行うために「インボイス以外」の区分については、さらに
・80%
・50%
・仕入税額控除不可

という3つの区分に分けなければなりません。

ここまでの内容をふまえると
●税率
●インボイスかどうか
●控除できる消費税額の割合

の3つの項目に対応できるようにするために、消費税の対象となる仕入等については「税区分」は7つに分かれます。

消費税率2023年10月1日-
2026年9月30日
2026年10月1日-
2029年9月30日
2029年
10月1日以降
インボイス10%(1)課税仕入10%(100%控除)
8%(軽減)(2)課税仕入8%(100%控除)
インボイス以外10%(3)課税仕入10%
(80%控除)
(5)課税仕入10%
(50%控除)
(7)対象外
8%(軽減)(4)課税仕入8%
(80%控除)
(6)課税仕入8%
(50%控除)

インボイスかどうかに加えて、経過措置により時期ごとに控除できる割合が異なるため、少なくともこれだけの「税区分」が必要となるのです。

簡易課税の場合

簡易課税の場合は、売上などの収入についてのみ「税区分」を付与すれば消費税額を計算できるというのは先ほどご説明したとおりです。

簡易課税についても売上などの収入については、本則課税と同じようにインボイス発行の有無にかかわらず従来と変わりません。
仕入などについて「税区分」が不要である点も変更はありません。

2割特例の取扱いについて

「税区分」に関して一点気をつけていただきたいのは、令和5年度改正で追加された2割特例です。

2割特例を使える事業者は、本則課税を使っている場合には本則課税と2割特例の有利な方、簡易課税を採用している場合には簡易課税と2割特例の有利な方を選択できます。
そのため本則課税・簡易課税のどちらであっても、会計ソフトにおいて通常の課税売上の「税区分」とは別に、2割特例の計算を行うためのなんらかの追加入力が必要となるかもしれません。

この点についてはまだ対応をしていない会計ソフトも多いため、利用している会計ソフトの対応状況をよく確認しておいてください。

会計ソフトの初期設定も大事なポイント

インボイスの経理処理について「税区分」の他に皆さんに気をつけていただきたいのは、会計ソフトの「初期設定」です。

主な注意点としては
・本則課税か簡易課税か
・2割特例を適用するのか
・インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になる場合、課税期間の設定は正しいか

などが挙げられます。

特に3つ目のポイントには注意が必要です。

通常消費税の計算期間は1年間のため、今年の場合は個人事業者だと2023年1月1日から12月31日となります。
ところがインボイス制度が始まる初年度については、インボイス制度開始と同時に課税事業者になる場合、個人事業者だと2023年10月1日-12月31日が消費税を計算する対象期間となります。

この設定を間違えると消費税を納税する必要がない2023年1月1日-9月30日の期間についても消費税を払ってしまうことになるかもしれません。

こうした初期設定は後から変更すると、大量の仕訳データの修正が必要となることもありますので、インボイス制度が始まるまでにしっかりと確認しておきましょう。

執筆者情報

加藤博己税理士事務所 所長 加藤博己(税理士・ファイナンシャルプランナー)
税理士でありながらその枠にとどまらず、中小企業や個人事業主の経理業務の効率化をわかりやすく指導する専門家。中小企業の経営者が経理業務に苦戦する姿を見て、今後の中小企業の発展にはIT面からのサポートも欠かせないと考え、クラウド会計の導入やITを活用した顧問先業務の効率化を推進中。
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