インボイス制度が始まるまでに今からでも準備すべきこと
最終更新日:2023年11月30日
今回の記事では制度開始までに最低限どのような対応が必要か解説します。
準備をする際の基本的な考え方
インボイス制度への準備をする上で基本となるのは
●売手側
●買手側
に分けて考えることです。
この点を意識しておかないと準備をうまく進めることができません。
それぞれの立場での主なポイントは
【売手側】
●インボイスを発行するかどうか(=登録するかどうかの判断)
●どの書類をインボイスとするか
●請求書発行ソフトやレジのインボイス対応
【買手側】
●取引先からインボイスをもらう必要があるか
●実際に取引先からインボイスをもらえるかどうか
●会計ソフトの対応状況を含む経理処理方法
です。
この後それぞれの項目について順番に確認していきましょう。
売手として準備すべきこと
インボイス発行事業者として登録するかの判断
売手の立場として最初にやらなければならないのは
「インボイスを発行するかどうか決めること」
です。
インボイスを出さないのであれば、この後の売手としての準備は不要です。逆に言えばこの判断を行わないと、売手としての準備は何も進められません。
インボイスを発行するか決める際のポイントは
2.インボイスを発行しなくても取引に影響がないかどうか
3.インボイスを発行することによる負担増に対応できるかどうか
売上先が一般消費者のみであればそもそもインボイスを渡す必要はありません。事業者であったとしても、消費税の免税事業者や簡易課税という方法で消費税を計算しているのであれば、売上先はインボイスがなくても困りません。
売上先がこうしたケースに該当せず「インボイスを出してほしい」と要望があった場合には、インボイス登録するか判断が必要となります。
インボイス登録をすると消費税の納税が生じるなど負担は増えますので、できれば登録したくないという事業者も当然いるでしょう。その場合には、取引先の要望に応じなかったことにより今後の取引に影響がないか慎重に見極める必要があります。
その一方で、要望に応じてインボイスを発行するとした場合には
●消費税申告書の作成・提出
●消費税の納税(支出の増加)
なお、負担軽減措置として、免税事業者がインボイス登録に伴い消費税の納税が必要となる場合には、売上に含まれる消費税の2割を納税すればよいとする「2割特例」が準備されていますので、こうした制度が使えるかも確認しておきましょう。
ここまでのポイントをふまえて登録すると決めた場合には、制度開始までに忘れずに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出しましょう。
どの書類をインボイスとするかの決定
インボイスを発行すると決めた場合、次に準備すべき点は
「どの書類をインボイスとするか決めること」
です。
インボイスといっても決められた書式はありません。現在みなさんが使っている請求書や領収書などに必要な項目を記入すればインボイスとして認められます。
つまり何をインボイスとするかは自分で決める必要があります。
たとえば、同じ取引先に毎回請求書と領収書を出しているケースだと、どちらか一方のみインボイス対応をすれば十分です。
ただし「なんでもいい」というのは、逆にいえば取引先との間で
「何がインボイスとなるかについて誤解が生じる恐れがある」
ともいえます。
仮に「請求書のみインボイス対応をして領収書は対応しない」と決めたのであれば、特に定期的な取引がある売上先にはその旨を伝えておいたほうがよいでしょう。
請求書やレジなどの見直し
インボイスとする書類を決めた後に行うべきことは
「正しいインボイスを作成するための準備をすること」
です。
インボイスの作成には請求書発行ソフトやレジなどを利用することが多いのではないでしょうか。
出力した書類に登録番号など必要な項目がすべて記載されているか、事前に確認しておきましょう。
手書きの請求書などでの対応を予定している場合には、自社の登録番号のスタンプを用意すれば、未使用の請求書などを有効活用できます。
Excelを使ってインボイスを作成する予定であれば、インボイス様式に対応したテンプレートを利用することも検討してみましょう。
なお、インボイスでは消費税の端数処理はひとつのインボイスの中で税率ごとに1回のみと決まっています。請求書発行ソフトやレジなどがこの点に対応しているか事前に確認しておきましょう。
また、インボイスは発行した控えを保存しておかなければなりません。印刷して保存するか、または電子帳簿保存法に対応した形でデータ保存するかという点についても事前に検討しておきましょう。
買手として準備すべきこと
インボイスが必要か確認
買手としてはまず
「自分(自社)がインボイスを必要としているか」
について確認しましょう。
税務署に支払う消費税は原則的な方法では売上に含まれる消費税から仕入などに含まれる消費税を差し引いて計算しますが、インボイスがないと仕入などに含まれる消費税額を控除することができません。
これが買手としてインボイスを必要とする理由です。
免税事業者や簡易課税という簡便な方法で消費税を計算する事業者の場合、インボイスに基づいて税務署に支払う消費税を計算しませんので、取引先からインボイスをもらえなくても困ることはありません。
※これらの場合インボイスは不要でも、法人税や所得税の計算にあたり請求書や領収書などは保存しておく必要がありますのでご注意ください。
インボイスを必要としないことが確認できれば、買手としては制度開始後も従来通り業務を進めればよいということになります。
取引先の対応状況の確認
インボイスが必要とわかった場合にやるべきことは
「(特に大口の)取引先からインボイスをもらえるか確認すること」
です。
インボイスをもらえないと自社の消費税の納税額が増加しますので、特に大口取引先からインボイスをもらえるか確認しておきましょう。
なお、制度開始後3年間はインボイスをもらえなくても支払った消費税相当額の80%、その後の3年間は50%を控除できる経過措置があります。
経過措置が使えればインボイスをもらえなくても問題がないか確認し、もし厳しいようであれば取引先との価格交渉も検討しましょう。
消費税の申告書を提出するときになって
「あれ、去年よりも消費税額が大きく増えている」
と気付いても取り返しがつきませんのでご注意ください。
経理処理方法の検討
買手として準備すべき最後の項目は
「インボイス制度に対応した経理処理体制」
です。
経理処理については会計ソフトを使っている事業者が多いと思われます。
会計ソフトメーカー各社もインボイス制度に向けたバージョンアップを順次行っていますので
●インボイスとインボイス以外それぞれの会計ソフトでの入力方法
会計ソフトによっては取引先の登録番号を登録しておくと、登録状況を自動的にチェックする機能などもあります。
こうした機能の活用も含めて、インボイスに記載されている登録番号のチェックをどこまで行うか検討しておきましょう。
インボイス制度開始までに準備しておくべき基本的なポイントを解説しました。
制度開始の時期が迫っていることもあり、中小企業庁が免税事業者向けのインボイス制度相談窓口を準備してくれています。
準備が進んでいない事業者にとっても最もよくないのは何もせずに放置してしまうことです。
何から手をつけてよいのかわからないと悩んでいる事業者の方は、手始めにこうした窓口に相談してみましょう。
執筆者情報
加藤博己税理士事務所 所長 加藤博己(税理士・ファイナンシャルプランナー)税理士でありながらその枠にとどまらず、中小企業や個人事業主の経理業務の効率化をわかりやすく指導する専門家。中小企業の経営者が経理業務に苦戦する姿を見て、今後の中小企業の発展にはIT面からのサポートも欠かせないと考え、クラウド会計の導入やITを活用した顧問先業務の効率化を推進中。
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