覚書と契約書の違いとは?法的効力や必要な場面について解説
最終更新日:2024年08月06日
- 覚書と契約書の違いとは?
- 覚書と契約書の違い
- 覚書と念書の違い
- 覚書を用いる場面とメリット
- 効力(法的拘束力)を持つ覚書を作成するポイント
- 当事者の合意内容を反映
- 曖昧な表現を避ける
- 覚書の基本的な作成方法
- タイトル
- 本文
- 作成日
- 当事者の表示
- 覚書に印紙は貼らなくていい?
- まとめ
覚書と契約書の違いとは?
売買や賃借、雇用や請負といった、それぞれの当事者の意思表示の合致で成り立つ法律行為を契約といいますが、それを証明する書類が契約書です。一方で覚書は、それぞれの当事者が約束した内容をまとめた書類を指します。
覚書は、もともとは備忘録的な意味で残しておくメモとしての意味を持つ言葉です。ただし、ビジネスの場面で覚書という言葉が出てきたら、それは備忘録とは別の意味を持ちます。ビジネスの場面での覚書は、契約書の一種として作成されるものです。
契約書の金額の部分など一部だけを変更したい場合や、もともとの条文を生かしたまま、追加で「覚書」というタイトルで書面を作成し、契約書を補足するという使われ方が一般的です。この場合、タイトルが覚書であっても契約書の一部となりますので、法的な拘束力は本体の契約書とは変わりません。
また、契約書を作成するまでもないものの、約束ごととして取り決めたいことを書面で残す場合にも覚書というタイトルで作成されることもあります。
つまり覚書は、契約書の簡易版といったイメージでとらえるとよいかもしれません。
覚書と契約書の違い
覚書と契約書には、下記のような違いがあります。
拘束力の範囲の違い
覚書と契約書には、拘束力の範囲の違いがあります。契約書は契約内容について包括的に定めるものであり、その拘束する範囲も広くなります。一方で、覚書は契約書の一種とはいえ、その内容は契約内容の一部の変更や追加といった限定的な使用方法が一般的です。
このため、契約書に比べて覚書は拘束力が及ぶ範囲が狭いといえます。ただし、当事者の双方が合意して内容を取り決めた文書という位置づけは同じなので、法的な拘束力の強さという意味では契約書も覚書も変わりません。
使用場面の違い
契約書は不動産取引や雇用契約、企業間の取引における基本内容など重要な取り決めや、法的かつ厳密に内容を合意していく場面において使用されます。
一方で、覚書は契約内容の簡易な修正や加筆削除などに用いられるほか、「契約書」といったタイトルだと仰々しく感じられるような場面、例えば知人間での約束ごとや、2〜3行で済むような内容の契約に用いられるケースが多いです。
「覚書」というタイトルにする・しないの厳密な決まりはないので、基本的には当事者の自由ですが、ライトな場面で覚書が使用される傾向があるといえます。
形式の違い
契約書は取引にあたっての詳細な条件が記載されます。契約書には、契約当事者の権利や義務に関する条項、違反時の措置など詳細な情報が含まれており、取引の安全性と信頼性を確保するために重要な文書です。
覚書も拘束力を持つという点では契約書と同様です。しかし、もとになる契約書がある場合も多く、追記や変更箇所だけを覚書で記載するなど条項が少ないということもあり、A4で1枚などのシンプルな形式で作成されることが多いです。
覚書と念書の違い
覚書と念書は、名称は若干似ていますが、両者には明確な違いがあります。
覚書は、これまで説明してきた通り、契約書の簡易版といった形であり、契約する当事者双方の合意内容を記載します。そのため作成主体は当事者双方です。
一方念書は、契約書や覚書のように将来に向けて当事者が遵守すべき内容を記載する書類ではありません。発生した事実や約束ごとについて当事者の一方が確認して、もう一方に差し入れる書類のことであり、作成主体は当事者の一方です。
覚書を用いる場面とメリット
前述のとおり、覚書は契約内容の簡易的な修正・加筆削除や、個人と取り交わす約束事、簡単な内容で済むような契約に用いられることが多いです。
覚書は、特に契約書の内容変更の場面でメリットを発揮します。契約書に比べて手軽に作成できる点や、合意内容を明確にすることでトラブルを未然に防ぐ効果がある点が挙げられます。
契約書の内容を変更することはしばしば発生しますが、新たに契約書を作成するとなると、いくつも契約書というタイトルの書類が手元に残ることもありますし、場合によっては印紙代がかかる可能性もあります。かといって、契約内容の一部を口頭で変更するということは契約書による紛争防止という観点から望ましくありません。
そこで、覚書を用いることで、口頭での変更よりも確実に合意内容を記録できるため、後々の誤解やトラブルを防ぐことができます。覚書の使用は、作成にあたって簡便さと柔軟性、迅速性があるため、特に契約書の変更という場面で有効です。
また、もともとの契約書と覚書をセットで保存することによって、契約書の変更履歴がわかりやすくなることや、いつ契約内容が変更されたのかということが確認しやすくなる点も覚書のスタイルを利用するメリットといえます。
効力(法的拘束力)を持つ覚書を作成するポイント
覚書に法的拘束力を持たせるためには、双方が署名・捺印を行い、合意の意思を明確にすることが重要です。双方の合意によって作成された文書であることが証明できないと、覚書を作成する意味がありませんし、署名もしくは記名押印があればその書類が真実であると推定する旨が法律(民事訴訟法)でも規定されています。
また、契約書全般にいえることですが、具体的な合意内容を詳細に記載し、曖昧な表現を避けることも重要です。
当事者の合意内容を反映
契約書にしても覚書にしても作成する理由はいくつかありますが、最も重要な理由は、当事者間に紛争が発生してしまったときの証拠にすることです。紛争が発生し得ないような間柄であれば、契約書や覚書を作成する必要はありません。
そこで、覚書の作成においては、当事者の合意内容が反映されていることを表すのが重要です。具体的には当事者双方の署名や捺印を行うことで、合意の意思を明確にすることが不可欠です。
署名や捺印は、覚書に法的拘束力を持たせるための絶対条件ではありませんが、当事者が合意内容に同意したことを証明するために必要です。万が一紛争になった時に、相手方が覚書を作成した記憶がないといわれてしまうと覚書の意味もなくなってしまいます。
また、合意の日付や有効期限を明記することも必要です。これにより、合意の有効期間が明確になり、いつからいつまでの合意であるかが覚書の記載から一目瞭然となります。
曖昧な表現を避ける
覚書の作成において、具体的な合意内容を詳細に記載し、曖昧な表現を避けることは法的拘束力を明確にするために重要です。契約書は、当事者間の権利や義務を明確にするための法的文書であり、その内容が不明確であると、後々の紛争やトラブルの原因となります。
トラブル防止のためには曖昧な表現は避け、可能な限り具体的な言葉を使用することが重要です。曖昧な表現は当事者間に解釈の違いを生じさせ、紛争の原因となったり、紛争発生時の解決に役立たなかったりします。
表現以外にも、対象や目的、期間、解約条件などについて覚書で触れる場合があればしっかりと記載しておく必要があります。
覚書は契約当事者間の紛争発生時の解決手段となる重要書類です。作成時には、具体的で明確な記載を心がけることが、信頼性と法的拘束力を高める鍵となります。
覚書の基本的な作成方法
覚書も契約書の一種です。基本的に作成の際にはまずタイトルを明確にし、次に合意内容を具体的に記載します。最後に、双方の署名・捺印(電子契約の場合は電子署名)を行い、合意の意思を確認します。
タイトル
覚書は、その内容がひと目でわかるようにタイトルをつけることが一般的です。単に「覚書」というタイトルでも無効になるわけではありませんが、どのような内容に関する覚書なのか、タイトルから見てわかるようにしておけば、後日確認がしやすくなります。たとえば「借主変更に関する覚書」「支払期日の変更に関する覚書」といった形です。
また、もともとある契約書の内容変更ではなく独立した覚書を作成する場合も「業務委託契約に関する覚書」や「賃貸借契約に関する覚書」のように内容が明確にわかるようにタイトル付けすることが重要です。
本文
契約書の内容を変更する覚書については、契約書のどの条文を変更したのかわかるように記載することが重要です。たとえば、元々あった支払期日を変更する場合には以下のように記載します。
甲及び乙は、〇年〇月〇日に締結した業務委託契約書の第4条に記載された支払期日を以下のように変更することに合意する。
【変更前】末締め翌月末払い
【変更後】末締め翌月20日払い
どの契約書の変更なのかを当事者間で明確に認識でき、かつどの条文に関する変更なのかを明らかにすることが重要です。
作成日
覚書の作成日は、実際に覚書が作成された日付を記入します。通常は覚書の内容に合意した日に覚書を作成しますので、覚書の作成日=合意日になります。
ただし、当事者の合意自体は口頭でも成立することから、もし覚書に記載する内容について覚書の作成日以前に合意していたことを表したい場合には、合意内容が有効になる日を明確にするために、合意した日付を明記するようにしましょう。
たとえば、以下のように記載します。
〇年〇月△日
当事者の表示
覚書は当事者の合意を証明する書類です。そのため、覚書の当事者全員の署名や捺印を行います。当事者の署名、捺印は覚書の内容を有効にするために行うのではなく、後日内容をめぐって紛争が起こったときなどに当事者全員の合意で締結したことを証明するために記載します。
契約書の一部変更・追記等で覚書を取り交わす場合、元々の契約書締結時よりも当事者が増える場合には、全員の署名・捺印が必要となります。
たとえば、貸主甲と借主乙の賃貸借契約で、新たな借主として丙が乙の立場を引き継ぐ場合、もともとの契約書の当事者は甲と乙だけですが、覚書の当事者は甲、乙に加えて丙も入ります。
覚書に印紙は貼らなくていい?
覚書の多くの内容は契約書の軽微な変更になるので、たいていは覚書に印紙の貼付は不要です。ただし、覚書が契約額の変更のために作成される場合や、金銭の貸借に関する内容が含まれる場合には、印紙の貼付が必要になることもあります。
そのため、覚書の内容や使用目的によっては、印紙税が課されるかどうかを確認することが重要です。たとえば不動産賃借人の変更や契約期間の変更など、そもそも課税文書とはならない内容の変更のための覚書であれば印紙税は不要です。
また、覚書をデータで作成して電子署名で締結する場合は、そもそも紙でないため印紙の貼付は内容問わず不要です。
まとめ
覚書と契約書は、いずれも法的拘束力を持つという意味では同じですが、作成する場面が異なります。覚書は契約書の一部変更など軽微な合意内容の文書化に適しており、契約書はより広範囲に取り決めた合意内容を文書化するために使用されます。
覚書といっても契約内容を表す重要文書です。覚書の作成を意味あるものにするためにも、契約書と同様に具体的な合意内容を記載して署名や捺印を行い、証拠としての能力を持たせることが重要です。
執筆者情報
司法書士事務所V-Spirits 代表 渋田貴正(税理士・司法書士・社会保険労務士)法書士事務所V-Spirits代表、税理士法人V-Spirits社員税理士。
税理士法人V-Spiritsでは、開業時の融資サポートや事業計画の策定支援、会社設立支援、開業後の税務顧問など起業家のためのワンストップサービスを行っている。
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