領収書の金額改ざん防止策―大字

最終更新日:2024年02月26日

領収証の金額の独特の書き方には意味がある
皆さんは、日常業務で領収証を受け取り、会社で経費の精算をしたことがあるでしょうか?さて、この領収証の金額欄、かなり独特の書き方がされています。なぜ、こんな書き方なんだろう?と疑問に感じたことはありませんか。これらはすべて、「改ざん(改竄)防止」という観点から先人が工夫してきた書き方なのです。以下、順々にその工夫をご紹介していきます。

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金額を挟む記号・文字 - 桁を増やさせない工夫

ちょっと前に話題になった「政務活動費の不正受給」という事件、皆さんは覚えているでしょうか?一連の問題の発端となった富山市議会の事例では、白紙の領収書に架空の金額を記入したり、領収書の金額に数字を書き足したりという不正行為が発覚しました。下の画像は「富山市議会」の問題発覚時に公開されたものです。元の「¥2,268.-」の頭に「2」を書き加えています。このような改ざんを防ぐために、頭と末尾に「¥」と「.-」を書いているのですが、「¥」と「2」の間が空いていて、書き込み可能になっていたようですね。このような不正には昔から頭を悩ませていたのです。そして、その不正を防ぐための工夫が随所にあります。

まず、ひとつめは頭や末尾に加筆されない工夫です。
例えば、「13,510円」の領収証の金額欄に「¥13,510.-」と記載されることがよくあります。これが加筆を防ぐ工夫です。頭には「¥」または「金」、末尾は「.-」「-」「円(圓)也」「※」の文字を記載し、頭や末尾に数字を追記できないようにする工夫です。
よく目にする末尾の記号は「-(ハイフン)」または「.(コンマ)-(ハイフン)」です。元々は「.(コンマ)-(ハイフン)」と記載していたようです。「円より下の補助単位-銭、厘はありませんよ」ということを明示する意味だったようです。「.(コンマ)」以下の数字は「-(ハイフン)」ありませんよ、という意味ですね。
しかし、現在は銭の単位は為替・株式の取引・少額物品の単価見積で使用されることはあっても、領収金額に銭の単位は使用しませんので、「-(ハイフン)」のみを記載するように変わってきたようです。「.(コンマ)-(ハイフン)」の形式は少額紙幣・少額貨幣が存在していたころの名残りです。(因みに1953年に50銭の小額政府紙幣が廃止されましたー戦後も暫らくは銭の単位の貨幣は使われていたのですね)

「壱」「弐」「参」- 大字(だいじ)での金額表示

昔、手書きで縦書きの領収書をもらったことがありました。例えば、13510円の領収書の金額を「金壱萬参阡伍陌壱拾圓也」と達筆で書かれていたのです。その時は、単純に「縦書きだとアラビア数字は使えないからそういう書き方するんだなぁー」と思いましたが、この数字を表す独特の漢字ー大字(だいじー)も改ざん防止策だったのです。縦書きの場合、アラビア数字では読みにくいので漢数字を使いたいところです。しかし、漢数字の「一」「二」「三」は画数も少なく簡単に書けるのですが、改ざんも簡単です。「一」の上下に横棒を加筆すれば「三」に改ざん、などということが簡単に出来てしまいます。
その点、大字(だいじ)の「壱」にどんなに加筆しても「弐」にも「参」にもなりません。簡単に改ざんできないように、わざと画数の多い漢字を漢数字の代わりに使います。
これは、中国でも日本でも使われている手法で、日本では大宝律令から使われている由緒正しい改ざん防止策です。横書きではアラビア数字を使うのが一般的なので、最近では見なくなりました。因みに、現行法(公正証書、戸籍の年月日の記述等)でも一部の法律で「壱」「弐」「参」を使用するように定められています。実際に使われている大字(だいじ)は下記に詳しく出ています。

大字(だいじ)の金額表示がまだ現役 ー 祝儀・不祝儀の内袋

領収書では見なくなった大字(だいじ)ですが、今も現役で活躍していて、皆さんが馴染み深いのは、祝儀・不祝儀の内袋へ金額を記載する場面かと思います。巷のマナー本や解説のホームページで「マナーとして漢数字は旧字で書きましょう」などと書いているものもあるようです。しかし、元々は改ざん防止策でしたので、現在ではわかりやすく漢数字でも問題ないと思います(そのように記載しているページもありました。)
余談ですが、そのような解説で「大字(だいじ)」のことを旧字や旧漢字と表記しているものが多いですが、厳密な意味で旧字と大字は別物です。「万」を「萬」、「円」を「圓」と表記するのは旧字ですが、「一」の旧字はありません。昔から「一」は「一」でした。ただ異字体として「弌」という字があったようです。やはりアラビア数字に比べると漢字は本当に複雑ですね。

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