インボイス制度に関する実務上のよくある質問 その1
最終更新日:2023年11月29日
なお、文中で「国税庁インボイスQ&A」と記載しているものは
「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和5年10月改訂)」を指します。
よくある質問<売手編>
Q1:毎月20日に締めて請求書を発行しているが、インボイス制度開始日をまたいでインボイスを発行する場合、請求書を分ける必要はありますか?
A1:インボイス発行事業者として登録した日をまたぐ期間の請求書については、登録日前の売上と登録日後の売上に区分して表示する必要があります。
ただし登録日が制度開始日(2023年10月1日)である場合には、買手から見た場合
- 2023年9月30日までの仕入:区分記載請求書等の保存により仕入税額控除可能
- 2023年10月1日以降の仕入:インボイスの保存により仕入税額控除可能
買手が受け取る請求書等がインボイスとしての要件を満たしている場合には、区分記載請求書等の要件も満たしていますので、どちらも仕入税額控除を受けることができます。
従って、このケースでは売手はインボイス制度開始日前後(2023年9月20日~9月30日、2023年10月1日~10月19日)で記載内容を区分せずに交付することも認められます。
なお、売上側が消費税額の計算に「積上げ計算」を適用したい場合には、制度開始日前後で区分して記載する必要がありますのでご注意ください。
【参考】国税庁インボイスQ&A問77
Q2:発行したインボイスの写しを保存しておく必要があると聞きましたが、請求書のコピーをそのまま残しておかないといけないのでしょうか?
A2:インボイス登録事業者には、発行したインボイスの控えを保存する義務があります。
この保存については、発行したインボイス(請求書等)をコピーして保存する方法の他に、インボイスの記載事項を確認できる
などを保存しておくことも可能です。
また、一貫してデータで作成したインボイスを紙で交付した場合の控えについては、データのまま保存しておくことも可能です。この場合、電子帳簿保存法の「電子書類」の保存ルールに従って保存する必要があります。
なお、保存しておく資料については、交付した年度(課税期間)の申告期限の翌日から7年間保存しておかなければなりません。
※申告期限を延長している場合などは、保存期限が異なりますのでご注意ください。
【参考】国税庁インボイスQ&A問78・問79・問80
関連記事
Q3:従来レシートには屋号のみを記載していましたが、インボイスには屋号ではなく会社名を書かないといけないのでしょうか?
A3:個人事業者の場合は、インボイス登録申請とは別に「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出することにより、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトにて屋号をひとつ公表することが可能です。
【参考】国税庁:請求書やレシートに「屋号」を記載している個人事業者の皆さまへ
その一方、法人については個人事業者のように屋号を登録・公表する仕組みはありません。
しかしながら、インボイスに電話番号を明記するなどの方法により屋号とインボイス発行事業者の関係を確認できるような状態になっていれば、会社名ではなく屋号のみを記載する方法も認められます。
※インボイスを受け取った事業者がわざわざ記載された電話番号に電話をかけて、屋号と事業者の関係を確認する必要はありません。
なお、複数の屋号を使用している個人事業者については、ひとつしか屋号を公表できませんがこの場合も、法人の場合と同様に電話番号を記載することで屋号のみ表示することも認められると考えられます。
【参考】国税庁インボイスQ&A問55
Q4:弊社は消費税率10%の商品しか取り扱っていませんが、インボイスに税率10%と記載しなければなりませんか?
A4:インボイスの記載項目として「適用税率」は必ず記載しなければならないこととなっています。
軽減税率(8%)の販売しかない場合に、10%の税率を表示しなくてもよいというルールはありませんので、インボイスには消費税率10%の記載は必要となります。
なお、簡易インボイスの場合、記載項目は「税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率」とされているため、「税率ごとに区分した消費税額等」の記載があれば適用税率の表示はなくてもかまいません。
【参考】国税庁インボイスQ&A問74
よくある質問<買手編>
Q5:2023年10月に受け取った請求書について、売手の売上計上が9月だったためインボイス対応した請求書をもらえませんでした。この場合、当社は仕入税額控除を受けられないのでしょうか?
A5:買手が仕入税額控除を受けるためにインボイスの保存が必要となるのは、売手が2023年10月1日以降に計上する売上からとなります。
売手が出荷基準により2023年9月に売上を計上し、買手が検収基準により10月に仕入を計上するケースでは、売手にはインボイスを発行する義務はありません。
この場合は、売手から受け取った請求書(=区分記載請求書等に該当するもの)を保存することにより、買手は仕入税額控除を受けることが可能です。
【参考】国税庁インボイスQ&A問38
関連記事
Q6:受け取ったインボイスに記載されている登録番号が正しいかどうか、毎回すべてチェックしないといけないのでしょうか?
A6:インボイス登録していない事業者からインボイスと誤認させるような書類を受け取り、インボイスであると誤解して消費税の申告をした場合、後日修正申告をしなければならない可能性があります。
そのため、インボイスを受け取った事業者においては、記載された登録番号が有効なものかどうか国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトを通じて確認した方がよいとされています。
しかしながらすべてのインボイスについて登録番号を確認することは膨大な作業となり現実的ではありません。
したがって、一例として
などのルールを検討して運用すべきです。
なお、消費税の計算方法として簡易課税や2割特例を適用している事業者については、仕入税額控除にインボイスは必要ありませんので、こうしたチェックは不要です。
また、インボイスと誤認させるような書類を発行することについては罰則が設けられていますのでご注意ください。
【参考】インボイス制度の開始に向けて特にご留意いただきたい事項(3/3)
Q7:自社で負担した銀行の振込手数料についてもインボイスを保存しないと仕入税額控除ができないのでしょうか?
A7:自社で負担した銀行の振込手数料については、振込方法により取扱いが異なります。
【1】ATMで振込した場合
一取引あたりの振込手数料が3万円未満の場合は自動販売機特例を適用することができるため、帳簿に必要事項を記載することでインボイスを保存することなく仕入税額控除を受けられます。
【2】ネットバンキングや窓口で振込みした場合
この場合には自動販売機特例の適用はないため、仕入税額控除を受けるためにはインボイスの保存が必要となります。
インボイスの発行方法については銀行ごとに対応が異なります。ご利用中の銀行がどのようにインボイスを発行するかについて事前に確認しておくことをお勧めします。
【参考】国税庁インボイスQ&A問47
執筆者情報
加藤博己税理士事務所 所長 加藤博己(税理士・ファイナンシャルプランナー)税理士でありながらその枠にとどまらず、中小企業や個人事業主の経理業務の効率化をわかりやすく指導する専門家。中小企業の経営者が経理業務に苦戦する姿を見て、今後の中小企業の発展にはIT面からのサポートも欠かせないと考え、クラウド会計の導入やITを活用した顧問先業務の効率化を推進中。
プロフィールを見る >
関連記事
インボイス のテンプレート一覧へ
インボイス制度に対応した請求書や領収書テンプレートのほか、取引先の登録番号を管理するシートや通知文等、Excel(エクセル)形式やWord(ワード)形式の様々なテンプレートが無料でダウンロードできます。
インボイス制度に関する解説記事と合わせてご利用ください。